この空き家のある八街市四木は、自動車を利用すれば都心から1時間ほどの距離であるが、最寄り駅である八街駅からは約7km強ほど離れた立地で、路線バスは1日数本のみ。周辺には、かろうじてコンビニエンスストアが1軒あるのみで、商業施設は皆無であり、自家用車がなければ生活が困難な立地である。
売却されず空き家になっている理由
これは一見して奇妙な光景である。
なぜなら、少なくとも千葉県内においては、築30年前後の住宅であれば中古住宅として普通に流通しているからだ。利便性に劣る限界分譲地でも同様だ。もちろん価格が所有者を満足させるものであるかどうかは別だ。
近年では外国籍の購入者も珍しくない。空き家が外国人労働者の共同宿舎として利用されることもあるため、総じて中古住宅の取引は活発だ。むしろ投資に適した価格帯の物件が少なくなっている印象すらある。
このような事情から、リフォームして利用できる程度のコンディションであれば、仲介業者が取り扱ってくれる。むしろ、そんな空き家が放置されているその同じエリアで、業者や不動産投資家が中古物件の出物を待ち構えている。それにもかかわらず、一方では、ただ荒れるに任せているような空き家は増え続けている。
この倒錯した状況は、分譲地の調査を始めた当初からの疑問であった。そのため筆者は以前から、家探しを行う傍ら、築年の浅い家屋が空き家となってしまう原因を探ろうと、たびたび空き家の登記事項証明書を取得してきた。登記情報のみでその理由を突き止めるのは難しいが、空き家放置に至るいくつかの傾向は読み取ることができる。
所有者は所在不明のケースがほとんど
登記事項証明書には所有者の住所が記載されているが、その現住所が空き家の所在地で登記されたまま変更されていないケースが目立つ。
転居時に、住民票は移動させても、所有する土地家屋の住所変更の登記を行う人は少なく(登記費用も必要になるので売買時に一括して行う人が多い)、これが民間レベルで空き家や空き地の所有者を追跡することが困難になっている一因でもある。
転居理由として考えられる事例はいくつかあるが、もっともよく聞く話は、居住者が高齢化、あるいは健康不良などにより、介護施設や親族などの居宅に身を寄せているケースだ。
特に認知症などを患ってしまった場合、相続も発生していないので親族が勝手に家の処分を行うことも出来ず、これは空き家放置に至る典型でもある。