中学1年の冬から始まった「気象ノート」

山口氏は1973年、京都市に生まれた。やや内気だが外で友達と遊ぶのが好きな、ごくごく普通の少年時代を過ごした。気象に対する興味など、かけらもなかった。

インタビュー時、中学生の頃からの気象ノートや新聞スクラップの一部を見せていただいた。これら歴代の紙資料や実家のVHSビデオで録り貯めてきた気象番組のダビングDVD集などは、自宅のひと部屋をそっくり使って保管・整理され、必要時にはすぐ参照できるようになっている。(撮影=プレジデントオンライン編集部)

中学1年になった85年12月17日のこと。京都に雪が降った。雪自体は珍しくないが、山口氏の実家がある市内南部の降雪量はそう多くない。

「ところがその日は夜まで降って、楽しみに見ていたら結局2センチ積もりました。これを何とか記録に残したいとノートにメモしたのが始まりで、以降、毎日の天気を書き留めるように」(山口氏、以下同)

いったん興味が湧いたものはとことん掘り下げ、吸収する性分を秘めていたようで、中学2年時の8月にはNHKラジオ第2放送の気象通報を基に、人生初の天気図を作成した。

「沖縄に台風が接近中だと知り、どうしてもやってみたいと思ったんです。気象通報では地点、天気、風速風向、気圧をアナウンサーが読み上げるので、聴き取ったデータを自分で描いた日本地図上に反映させた後、等圧線を引いて午後6時時点の天気図を完成させました。前年に積雪の記録を付けて以来、気象について一生懸命勉強し始めていたからできたんでしょうね。今振り返っても、そう間違ったものは作ってなかったはずです」

この頃から、毎晩10時に放送される気象通報をひたすら書き写す作業が加わった。

雨量計は自前、尋常ではない熱量でのめり込む…

前年からの気象メモは当初の天候だけでなく、月日を重ねるにつれ自宅で計測した気温、風力、風向、雲量、気圧、降雨量など、項目がどんどん増えていく。

「計測は主に目視と体感です。風力に関しては、気象庁が出している地上気象観測指針に葉っぱがそよぐぐらいの強さだと風力2とか書かれてあるので、そうした目安に照らし合わせて今日の風はどのくらいという数値を出して。ただ気圧だけはちゃんとした機械がないと測れないので、高3の時に2万円出して買いました」

雨量計は自前のもの。

「バケツを外に置いとくっていう原始的な方法なんですけどね。中に溜まった雨の体積が、降水量何mmに相当するかを換算するんです。雨が降っている日は、深夜0時になるとバケツの水をメスシリンダーに移し、1日分の降水量を計算していました」

その姿を想像すると、さながら若きマッドサイエンティストに思えなくもない……。

撮影=プレジデントオンライン編集部
最近自作した雨量計。基本的な原理は、気象庁などが使うプロ仕様の計測器と同じだ。材料はホームセンターなどで調達。

高校時代は部活に所属せず、授業が終わると毎日家に飛んで帰って、気象観測と気象記録と天気図作りに没頭。合間に気象関係の新聞記事のスクラップをしたり、NHKラジオの気象通報やテレビの天気予報コーナーもチェック、録画しなければならないから、気が付けばいつも夜中の12時前。だがそうした時間こそ、当時の彼には無上の喜びだった。