メリットがあってはじめて信頼関係が生まれる

人はメリットがないと動かない。仕事でもプライベートでもそうだ。あなたがだれかになにかを頼まれる。どうする? 引き受けるかどうか。その判断材料はメリットの有無にしかない。

街で道に迷っている人を見かけた。あなたはどうするだろうか。よほどのことがないかぎり手助けするはずだ。そこにはメリットがあるからだ。どんな? 困った人を見捨てない自分。善良である自分。肯定できる自分。それを再確認できるメリットだ。

道に迷っているその人は、巡り巡ってあなたの自己肯定にひと役買っているわけだ。その人はあなたに明確なメリットを提示している。

だから僕は綺麗ごとが嫌いだ。抽象的な綺麗ごとはメリットの有無をあやふやにしてしまう。具体的なメリットのやり取りがあってはじめて信頼関係は生まれる。それが生産的であるということだ。それが相手に対して誠実であるということだ。僕はそう思う。

ダークヒーローが「ホワイトナイト」と言われた日

ダークヒーローの僕が「ホワイトナイト」と称されたことがある。メディアをにぎわせたので知っている人も多いと思うが、いわゆる「4630万円誤送金問題」をめぐってのことだ。

2022年4月、山口県阿武町は新型コロナウイルス対策の臨時給付金4630万円を誤って1人の町民に振り込んでしまう。同町はすぐに返還を求めるもその町民はそれを拒否。同町は返還請求の訴訟に踏み切り、その町民の氏名と住所を一般公開する。事態は紛糾し、誤送金からおよそ1カ月後、その町民、田口翔さんは電子計算機使用詐欺容疑で逮捕される。この模様はマスコミで連日報じられた。

そもそもの発端は同町の誤送金。また行政が個人情報を一般公開するというのは極めて異例だった。だから同町の対応を問題視する声も一部にはあった。とはいえ、誤送金と知りながら返還に応じず、しかもそれをオンラインカジノで使い切ったという田口さんに対する世間の非難はすさまじかった。

写真=iStock.com/Bet_Noire
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逮捕の2日後、オンラインカジノの決済代行業者から同町の口座に約4300万円が返還。さらにそこからおよそ1カ月後、田口さんは残りの340万円を返済する。代理人弁護士は「東京のほうのホワイトナイト」から借りたと説明。そのホワイトナイトの正体をめぐってさまざまな憶測が飛び交ったが、その正体はほかでもない、この僕だ。とある経緯があり、僕がホワイトナイトを買って出ることになったのである。