救った動機はただ「世間の注目を集められるから」

同年8月1日、田口さんは逮捕から2カ月半ぶりに釈放される。当日、山口南警察署から出てきた田口さんは詰めかけた報道陣に深々と頭を下げ、すぐそばに乗りつけていた僕らの車に乗り込んだ。呆気にとられる報道陣を尻目に僕らは走り去った。

どうして僕が田口さんのホワイトナイト役を買って出たのか。どうしてユーチューバーが、ヒカルが、この件に首を突っ込んできたのか。だれもが疑問に思っただろう。

でもそこに深い理由はない。必然性もない。僕の動機はシンプルである。それは目立つから。話題になるから。世のなかの注目を集められるからだ。

釈放直後の田口さんの独占インタビューをYouTubeで配信しよう。田口さんは良くも悪くも時の人だ。彼の口からじかに語られる事件の説明、釈明、言い分、謝罪、不満。多くの人がそれを聞きたいはずだ。実際、山口南警察署には全国からマスコミが集まっていた。でも田口さんの声を伝えるのは彼らマスコミではない。いちユーチューバーのこの僕だ。そんなの前代未聞だろう。

「賛否両論」というブランディング

とうぜんながらそのインタビュー動画はバズりにバズった。おかげでたくさんの広告収益が入った。こんなビビッドなことをやってのけるユーチューバーはほかにいないだろう。真似したくても真似できない。吹き荒れる賛否両論も覚悟しなくてはいけない。でも賛否両論は僕にとってブランディングだ。ヒカルはなにをやりだすかわからない――そんなブランディングである。

ヒカル『心配すんな。全部上手くいく。』(徳間書店)
ヒカル『心配すんな。全部上手くいく。』(徳間書店)

ようするに僕にとってこの件はメリットずくめだった。そしてそれは田口さんにとっても同じだ。田口さんはこの動画収益の一部を手にする。出演者なのだからあたりまえだ。今回の僕はホワイトナイトなのだから田口さんを支援する。彼はとうめん僕が出資する関連会社で働く。更生、社会復帰の第一歩だ。

もちろん彼が望むのならずっとそこで働いてもらってもいい。田口さんはまだ24歳と若い。自立し、しっかり稼ぎ、借金を返済して、だれよりも迷惑をかけたというお母さんを安心させてほしい。

そのための土台は用意した。メリットはしっかり示した。あとは田口さんしだいだ。

今回の事件で田口さんは精神的にもそうとう追い込まれた。世間からさんざん叩かれた。そして過去は消えない。でもそのマイナスをプラスに変えることはできる。もちろん平坦な道のりではないだろう。だからこそ大復活を遂げれば、そのぶんインパクトもデカい。だれかの励みにもなるかもしれない。なにより僕も鼻が高いのだ。

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