人口増加の背景にあるのは乳幼児死亡率

なぜ、産業革命期を過ぎた1900年頃から人口は増加していったのだろうか。

その理由については、5歳未満の乳幼児死亡率の推移をみればよくわかる(図表3)。西ヨーロッパや米国では、産業革命期になると乳幼児死亡率が一気に減少していった。そしてインドやブラジルなどの発展途上国は、戦後に経済発展期を迎えた辺りから、遅れて乳幼児死亡率が減少していっている。

乳幼児死亡率が人口増加率とどのように関係しているのか。あらためて説明すると、世界の人口増加率は、図表4の関数で表される。出生率から死亡率を引いたものに、国内外の人口流入・流出率を加味すれば、人口増加率が得られる。この関数では、出生率が上がる、もしくは死亡率が下がれば、人口増加率が上がることになる。

人口増加率を導き出す関数(出所=『ネイチャー資本主義』)

産業革命を境に栄養や疾病の状況が改善

普通に考えれば、死亡率が下がっていけば、出生率も同時に下がっていくはずだ。例えば日本では、かつては子だくさんだったが、今では出生率が大幅に下がり、少子化が問題となっている。もし、出生率と死亡率が同じように下がっていくのであれば、人口増加率が上昇することはない。だが過去の歴史を振り返れば、人口増加率は上がってきた。なぜか。

人口増加率が上昇する理由は、死亡率が下がるタイミングと、出生率が下がるタイミングには時差があり、死亡率がまず下がり、遅れて出生率が下がるからだ。そして死亡率の中でも乳幼児死亡率が大きな鍵を握っている。

産業革命を迎えると乳幼児死亡率がまず下がる。それは産業革命がもたらした技術のおかげだ。乳幼児死亡率は、戦争や紛争を除けば、基本的に栄養や疾病の状況で決まる。食料が豊富に手に入り、水・衛生環境がよくなり、医薬品やワクチンにアクセスできるようになれば、乳幼児死亡率は下がっていく。産業革命を迎える前の社会では、5歳未満の乳幼児死亡率は概ね30%と極めて高い。それが限りなくゼロへと近づいていくのだ。