顧客データ集め中国で1千店へ

次は北京。年内に、中国で計1000店にしたい。大都市では市民の所得が着実に伸び、購買力の上昇は目覚ましい。来店者を増やし、その頻度を高める余地は大きい。2020年に、全土で1万店にするのが大目標。実現に、現地企業との提携だけでなく、M&Aも進める。すでに数件の商談が進行中だ。

無論、1万店へのハードルは高い。カギは、QSCへの原点回帰と、競争相手に大きく差をつけるための「武器」が握る。その武器とは、ポイントカード「Ponta」だ。

大半のコンビニ店では、単品ごとの売れ行きをつかむため、レジで勘定を処理する際にお客の性別や年代などをみて該当するボタンを押さないと、処理できないようになっている。競争相手が先行した手法で「業界標準」となった。だが、そのデータは不完全。店員たちは、ときに列をなすお客への対応に追われ、「どれでもいいから、ともかく押しておこう」となりかねない。たとえ男女を押し間違えても、誰にもわからないし、文句も言われない。

一昨年春、三菱商事が異業種の共通ポイントカード「Ponta」を立ち上げた。カードが使われれば、何を、いくつ買ったのか、バーコードで読み込んだデータで顧客ごとに残るシステムだ。これに参加する。同じ人がどのくらいの頻度で来て、どこまで同じ品を買うかが、簡単かつ正確にわかる。おにぎりやサンドイッチなどが品種ごとに、どの世代・性別に人気があるかもつかめる。そこで得たデータを、レジで入力していた当時の集計結果と比べたら、何と、約3分の2も違っていた。

データは、商品の生産量や流通量の決定に生かされ、売れ残りの圧縮に貢献する。「Ponta」カードはこの2月末、発行枚数が4000万枚に達した。

いま、全国1万500店のローソングループには1日900万人が訪れ、3人に1人が「Ponta」を利用する。毎日、300万人分のデータが集まる計算だ。いわゆるサプライチェーン・マネジメントに磨きがかかり、新商品の開発にも反映される。

カード利用者がお客の半数を超えれば、商品の発注は売れ行きに沿って自動化もできる。そうなれば、店のオーナーは時間に余裕ができるから、できるだけ店頭に出て、お客の声を聞いてほしい。ハイテクは徹底的に活用するが、小売りの命はお客との接触、ハイタッチにある。競争会社には「発注にもっと時間をかけよ」と言う経営者がいるらしいが、ここでも自分は「枉己者」にはならない。

中国でも、大都市ではカード文化が広がり始めた。ポイント文化はまだまだだが、1000店規模になれば、お客の購買行動のデータは勝ち抜くための糧となる。昨夏、ジャカルタにインドネシア1号店を開き、もう15店できた。タイでも開店準備中で、年内にミャンマーにも進出したい。さらにはインドやベトナムへ。「Ponta」と同じシステムを、いずれアジア中に広げたい。

新春、53歳になった。あれこれ考えると、あと10年、社長を続けても、やりたいことが終わりそうにない。だから、国内のコンビニ事業とエンターテインメント事業などには、それぞれ責任者を置き、自分はCEOとしてグループ全体に関するテーマの決断と海外展開に集中する。アジアの国々は、トップ自らが会いにいかないと、話が進まない。

まだまだ、日本でも海外でも、飛び回る体力はある。やはり、企業でも政府でも、組織のトップには体力が不可欠。そして、「枉己者」を拒み続ける精神力も、欠かせない。

(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)