「俺は何をしたんだ…?」途端に涙が溢れてきた

騒ぎの後、桜木さんは家族に、「何やったのあんた⁈」と詰められたが、それ以上のことはなかった。

それから3カ月ほど経った1999年冬。22歳の桜木さんは、家を出た。会社の同僚のAさんと交際を始め、同棲することになったのだ。Aさんは5歳年上で、5歳と3歳の娘がいるバツイチ。このAさんとの生活で、桜木さんが長年新興宗教の信者だったことによる呪縛が露呈することになる。

Aさんと暮らし始めてから、桜木さんは数多くの戸惑いを経験。道端で手をつなぐだけでも、また子供たちがクリスマスソングを歌い出しても、周りを気にしてしまう。正月の過ごし方も、2人の子供との接し方も分からない。子供のしつけなど、桜木さんにはお仕置き部屋の記憶しかなかった。

半年ほど経った頃、2人の子供は保育園で桜木さんの似顔絵を描き、「瞬パパの顔!」と見せてくれた。桜木さんは幸せだった。

ところがある晩のこと。「久々に友達と飲みに行きたい」と言うAさんを快く送り出し、2人の子供と留守番をしていると、上の子がなかなか寝てくれない。「早く寝かさなきゃ」と焦っていた桜木さんは、上の子が起き上がって遊び始めた瞬間、お尻を叩いていた。上の子が泣き叫ぶと、桜木さんはハッとした。

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「俺は何をしたんだ……?」

途端に涙が溢れてきて、「ごめんね! ごめんね! 痛かったよね! ママがいなくて寂しかっただけなんだよね!」と上の子に謝る。泣き疲れた上の子は、眠ってしまった。

翌朝、Aさんから、「叩いたの?」と聞かれる。桜木さんがうなずくと、「信じてたんだよ? 私、もうダメかも。明日出て行って」と取り付く島がなかった。

Aさんが離婚したのは、前夫のDVが原因だったのだ。娘に暴力を振るわれたAさんは、もう二度と桜木さんを信じなかった。

「この時初めて子供を叩いてはいけないことを知りました。私が今でもお仕置き部屋とそこにあった道具が許せないのは、この出来事が理由です。自分が知っている常識は世間の常識ではないのか。自分が何を知って、何を知らないのか。知らないことで誰かを傷つけたりしないのか……。私はこの時、“教団の教え”という“殻”の存在に気付き、ヒビが入った所。『根っこの部分に張り付く教団の教えを取除かないといけない!』そう思った瞬間でした」

Aさんと気まずくなった桜木さんは、仕事も辞めてしまった。ホームレスのような生活をしたり、キャバクラのボーイをしたりしつつも、やっとアパートを借りて暮らし始める。

インターネットができるパソコンが、漫画喫茶の付属設備のひとつとなって間もない2000年春のある晩、桜木さんは漫画喫茶に入り、自分が入っていた新興宗教について調べ始めると、涙が止まらなくなった。朝まで過ごした桜木さんは、自分が入っていた新興宗教に関するサイトの管理人に電話をすると、意気投合。管理人も、かつての信者だった。

その後すぐに、「教団は間違っている」と言いたくて、約3年ぶりに実家に電話をする。母親に話し始めると、「それ以上言ったら背教者よ! もう二度と電話しないで!」と切られ、以降、電話に出てもらえなくなった。桜木さんは、猛烈な怒りを組織に感じていた。