下北沢なのにお客さんはオジサンばかり

売り上げが伸びない一番の原因は客層にあるというのが、黒田の読みだった。男性の中高年層が中心で、下北沢に遊びに来る若者は多くない。店のブログを開設して、グルメサイトにも掲載する予定だ。まずは、「下北沢 焼きそば」と検索する人を増やさなければならない。

一方で、一人で来店する女性が少なくないという発見もあった。ジャンクな食事をとるのを人に見られることに抵抗がある女性にとって、ビルの2階はふらっと入りやすいロケーションなのかもしれない。店員が一人で営業している洋服屋や雑貨屋は、ゆっくり食事に出ることができない。彼女たちのテイクアウトやデリバリーのニーズにも対応していく必要があった。

調理法の改善は続いている。焼きそばがすすれないと指摘されることが多く、下焼きの油を少なくした。麺の食感を維持しながら、オイリーな重みがなくなり、すっきりした印象がある。麺の盛り方を変えたからか、ほぐしやすくなった気もする。

「今まで焼き過ぎてたっていうのもあるかもしれないです。油の適量がわかって、味に安定感が出てきたと思います。取り返しがつかなくなるうちに、修正できてよかったです」

グルメサイトでの評価を意識しての言葉だろう。どの分野の飲食店でも影響力のあるレビュアーがいて、その人たちの評価で店の評判が決まってしまうことが少なくない。ラーメンは特にその傾向が強く、一度低い評価をつけられるとなかなか回復できないという。

ソース焼きそばに並ぶ目玉メニューがほしい

焼きそばの価格は750円にした。ラーメンと比べて掛けている手間は変わらないが、高いと感じている客の気持ちはわからなくもない。金を払って焼きそばを食べに行くことに慣れていないからだ。当面闘わなければならない一番の相手は、そんな世間の先入観かもしれなかった。

発券機と開店当初のメニュー(写真提供=焼き麺スタンド)

黒田が頭を悩ませていることが2つあった。

一つはメニューだ。ソース焼きそばが店の柱であることに変わりはないが、それだけでは客が飽きてしまう。できればもう一つ目玉が欲しかった。焼き麺スタンドという店の方針に合わせながら、今のオペレーションで提供できるメニューだ。

むずかしいのはその位置づけだ。メニューは店の顔ともいえ、ソース焼きそばと並ぶ形でリリースするのであれば、完成度は同じくらいに高くなければならない。塩焼きそばはすでに何度も試作しているが、まだ味のインパクトが小さかった。