有機農法だけでは世界中の人は養えない

しかし、スリランカを見てほしい。今年、スーパーインフレが起こり、暴動が国中を大混乱させた直接の原因は、2021年、ラジャパクサ大統領が窒素肥料の使用を禁止し、過激な有機農法を進めた結果だ。これにより基幹産業である農業がたちまち瓦解、国家経済は破綻し、大統領は国外へ逃げた。そして、国中が今も麻の如く乱れている。

農薬や化学肥料が人間や土壌に害を与えること、また、有機農業が理想であることは常々言われているが、しかし、大量の人間を養うためには、有機農法だけでは無理がある。それを、ドイツの緑の党の農業大臣が知らないはずはない。

ただ、食がおかしなことになっているのもまぎれもない事実だ。肉は本来、高価であるはずだが、先進国でその常識が崩れてすでに久しい。ドイツのスーパーで売っている肉は、日本のスーパーの値段の半分よりもさらに安い。そして、私たちはそれを食べながら、自然の恵みに対する感謝の念どころか節制まで失い、また太ったと文句を言っている。

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その一方で、世界では約8億人がいまだに十分な食糧を得られずお腹を空かせている(国連世界食糧計画)。しかも、現在、ウクライナ戦争のせいで、その歪みにさらに拍車がかかっているのだから、火急の修正が必要なことは確かだ。

EVシフトや太陽光パネルの推進と同じではないか

とはいえ、何となくに落ちない。EUが農業の改革として進めようとしているものは、どこかEVシフトや太陽光パネルの推進に似ている。いや、これは、まさに同じ構図ではないか。

例えば、農業改革もEVシフトも太陽光パネルも、温室効果ガス削減という美名の下、国家の強力な支援を受けて進んでいる。それによりオランダでは伝統産業の農業が追い詰められ、ドイツでは基幹産業である内燃機関の自動車が退場を余儀なくされつつあり、発電においてはEU全体で、再エネを化石燃料にとって代わらせる力が強く働いている。

これが進めば従来の産業構造は様変わりし、新しい巨大な産業分野が形成される。そして、その結果、起こるのは、世界のお金の流れの画期的な変化と、主要プレーヤーの交代だ。かつて石油メジャーがエネルギーで世界を支配したように、今、再エネ産業で世界のマネーをさらおうとしている人たちがいる。

そして、このまま行くと、間違いなく世界の食の支配を担う勢力が出現するのだろう。2016年~2018年にかけ、独バイエル社が遺伝子組み換え種子の世界最大手である米モンサント社を買収した事実は、農業が従来の姿から離れ、巨大なコンツェルンの支配下に収まっていく未来を彷彿とさせる。そのうち、世界中の農家が、ある一定の企業のF1種子を買わなければならなくなるとすれば、将来の農業の方向性は定められていく。