海外には蒸留酒を水割りして食中に飲む習慣はない

夕食時の家飲みや晩酌が行われるか否かを決める客観的な要因として、その国で主に醸されるお酒が、醸造酒か蒸留酒かの違いがある。どの国でも飲まれるビールを別とすれば、醸造酒は食中酒であり、蒸留酒は食前または食後酒である。

食中酒の好例が、フランスのワインやわが国の日本酒である。食後酒の好例が英国のスコッチや米国のバーボンである。そして、シェリー酒は代表的な食前酒である。

このため、醸造酒の国は「ワイン文化圏」となり、蒸留酒の国は「ウイスキー文化圏」となる。

加えて日本では、蒸留酒を水割りにして飲む習慣(古くは焼酎や新しくはウイスキーなど)もあるので、「ワイン文化圏」と「ウイスキー文化圏」の中間に位置しているともいえる。これに対し、英国でも米国でも中国でも、蒸留酒を水割りして食中に飲む習慣はない。この意味で、日本で晩酌の習慣が定着したのは、醸造酒たる日本酒とビール、そして蒸留酒の水割りのおかげといえそうだ。

個人への販促が重要な日本では酒のCMが多い

家飲みと外飲みのどちらが主体かは、企業行動に大きな影響を及ぼす。外飲みが多い国では、酒類メーカーの販売は、業務店経由での飲食店へのアクセスが主となる(B to B:Business to Business)。ここでは、いかに有力なネットワークをもつ業務店を確保するかが、マーケティングにおいて重要となる。

都留康『お酒はこれからどうなるか』(平凡社新書)

これに対し、家飲みが多い国では酒販店やスーパーマーケット、あるいはeコマース(インターネット上での売買)による個人への販売が重要である(B to C:Business to Customer)。その際の鍵は、一般消費者への訴求である。

訴求の有力な手段である広告を取り上げよう。

日本では、ビールや日本酒のテレビCMが実に多い。これに対して、海外では、そもそもアルコール飲料の広告に関して社会的な規制が強い。北欧諸国では、アルコールのテレビCMは全面的に禁止されている。他の欧米諸国でも、酒類別、媒体別に細かく表現が規制されている。

日本では、テレビCMでビールの飲酒場面は当たり前のように流されるが、米国では飲酒シーンは禁止されている。これには宗教的・歴史的な背景がある。最近では緩和もあるが、アルコール度数の高い蒸留酒の広告は禁止という国も多い(http://www.sakebunka.co.jp/archive/market/002.htm)。

こうした社会的規制の問題を別としても、外飲みが主体の国では、そもそもアルコール飲料に、日本のようにきめ細やかな広告を行う必要はないといえる。むしろ、ビールにおけるアンハイザー・ブッシュ・インベブ社(ベルギー)、蒸留酒におけるディアジオ社(英国)やペルノ・リカール社(フランス)のような、グローバル寡占企業の巨大化による流通網の支配のほうが、より効果的かつ有効だと考えられる。

家飲みが主体か、外飲みが主体かによって、企業行動にも影響を及ぼすことは重要かつ興味深い事実であろう。

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