トランプ的な手法をすっかりまねている

【池上】デサンティス知事はエール大学歴史学部卒、ハーバード大学ロースクール出身ですが、その実は「賢いトランプ」というべき政治スタンスです。差別的な表現や下品なことを公言はしないながら、トランプ的な手法をすっかりまねて、とにかく敵を作って叩く。激しく民主党批判を展開しています。そうすれば支持率が上がると見越しているのです。

特にLGBTに対しては非寛容で、今年7月には「幼稚園から小学3年までの授業で性的指向や性自認に関して教えることを禁止」する反LGBTQ法をフロリダ州で施行したことが国際的な話題になりました。

【増田】私が6月に取材に行ったハンガリーと同じですね。ハンガリーでは首相オルバーン・ヴィクトルが率いる与党が「学校内で同性愛や性転換などの、性の多様性について話すことを禁止し、違法とする」という内容の法律を提案し、圧倒的多数で可決されました。

2020年1月22日、フロリダ州ペンサコーラの海軍基地本部でエスパー長官と会談したフロリダ州知事ロン・デサンティス(写真=U.S. Secretary of Defense/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

【池上】こうした法案自体が、共和党支持者向けのアピールとみられています。さらにデサンティス知事に一気に注目が集まったのは、先の反LGBT法以前に成立していた通称「ゲイと言ってはいけない法案」(子どもたちが学校でLGBTQに関する議論を行うことを禁止する法案)に対して、フロリダ州にあるディズニーランドのトップが反対を唱えたことに対する報復を行ったためです。

フロリダ州では、ディズニーランドは州法によって「特別自治区」のような権利を与えられており、州法の適用除外や、一部免税措置まで講じられていました。しかしデサンティス氏はこの「特別扱い」をやめる州法に署名。いわば報復として、ディズニーの特権を剝奪した格好です。

【増田】この件はかなり大きなニュースになりました。こうした報復を歓迎している共和党支持者にとっても、たとえばディズニーランドの入場料が高くなるとか、あるいは雇用への悪化など、マイナスの影響もあるのではないかと思うのですが。

「共和党の悪夢」は起こるのか

【池上】共和党支持者にとっては、そういうことは大した問題ではないのでしょう。これでデサンティス知事はすっかり人気になり、大統領候補としての支持率がトランプに次ぐ25%まで高まったというわけです。

ところが共和党としては、難しい局面が続いています。「共和党の悪夢」がささやかれていて、それは何かというと、共和党内の大統領候補選びで仮にデサンティス知事が選出された場合、トランプ前大統領が「冗談じゃない!」と激怒して、「共和党をぶっ壊す」とばかりに独立候補として出馬するのではないか、と。

こうなった場合、共和党の保守票が分裂することになり、民主党の候補は楽々、大統領選に勝利できる。これが共和党にとっての悪夢なのです。

【増田】民主党側では、カリフォルニアのギャビン・ニューサム州知事が注目されています。ニューサム知事も54歳と、バイデン大統領よりは世代がずっと下で、7月22日には銃規制を強化する州法に署名した、典型的な民主党の政治家です。もしニューサムとデサンティスの対決になれば、カリフォルニアVSフロリダという州知事対決になるかもしれませんね。