割引がなくなると直販で買ったほうが安い
もともと携帯キャリアが販売する端末の定価はキャリアの利益分が上乗せされており、メーカーの定めた価格より割高であることが多い。
例えば、ソフトバンク版iPhone 13 Pro(128GB)の販売価格は16万9920円だ。しかしこれをAppleから直接購入すると、14万4800円。機能にまったく差はないにもかかわらず、約2万5000円も高い。契約時に2万円の割引が入ってもなおAppleから買ったほうが安いのだから、割引がなくなると積極的に買う理由は見当たらない。
改正電気通信事業法によってプラン料金は下がり、格安SIMを含めた通信事業者間の競争が活発になった面もあるものの、端末は気軽に入手しづらくなるという結果を招いた。
これによって、一般ユーザーが割引施策に頼らず、お得に携帯電話を運用しようと考えた場合、「家電量販店やメーカー直販で(わずかでも割引の入った)端末を買い、格安SIMのSIMカードを挿入して使う」というのが最適解になる。これが日本にとって良いことか悪いことかは私には判断できないが、ミクロな範囲での経済合理性を追求すると、こうなるはずだ。
大手キャリアをさらに窮地に追い込んだ販売方法
特にライトユーザーほど、こうなるだろう。3大キャリアのプランは基本的に「使い放題でやや高額なプラン」か「ギガ単価のかなり割高な小容量プラン」しかない。そのため、3大キャリアのプランがベストマッチするのは「通信品質の高いプランを無制限に使いたいヘビーユーザー」に限られる。中~小容量のプランを求めるユーザーは、端末の割引もなければプランの優位性もない大手キャリアを使う必要が薄い。格安SIMへの流出が起こるのは当然だといえる。
菅元総理の推し進めた「4割値下げ」施策によって、確かに通信料金は引き下げられた。しかし、それは同時に「端末」という強みを持っていた大手キャリアの強みを放棄させるものだった。
そして、さらに大手キャリアを窮地に追い込んだのが改正電気通信事業法で設定された「移動機物品販売」という販売方法の存在だ。この「移動機物品販売」が冒頭のような騒動につながってくる。