米軍もサイバー攻撃を仕掛けたことを認めた

しかし6月、米サイバー軍のポール・ナカソネ司令官が、ロシアに対してサイバー攻撃を実施していたことを明らかにした。詳細は明らかにしなかったが、開戦後、アメリカがロシアへのサイバー攻撃を認めたのは初めてのことと見られる。サイバー領域では「アメリカはロシアに対して行動する」という明確なメッセージであり、その後、ロシアからの報復があったのかも注目される。

なおNATOの根拠である北大西洋条約の第5条には、「締約国は、ヨーロッパ又は北アメリカにおける1又は2以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃と見なす」とある。NATOのストルテンベルグ事務総長は、この条文はサイバー攻撃にも適用されるという見解だが、攻撃の程度にもよるだろうし、加盟国の間でも議論が分かれるだろう。

本気になればロシアのインフラを止めることもできる

そのNATOで最大のサイバー攻撃能力を持つのは、やはりアメリカだ。「アメリカのサイバー攻撃能力は世界最強であり、どの国も決して勝てない」というのがサイバー業界の一致した見方だ。アメリカの情報機関はシステムの弱点を突くさまざまな攻撃ツールを保有し、本気になれば相手国に致命的なダメージを与えることができると見られる。都市中枢の社会インフラや交通インフラを止め、社会を混乱に陥れることも、アメリカにとっては難しくないとされる。

豊島晋作『ウクライナ戦争は世界をどう変えたか 「独裁者の論理」と試される「日本の論理」』(KADOKAWA)

その片鱗へんりんを見せたのが、2017年に起きたランサムウェア「WannaCry」の流出事件だ。

これは非常に強力なランサムウェアであり、全世界のインフラや企業が多大な被害を受けた。WannaCry自体はハッカー集団により開発されたが、彼らはワーム活動(感染拡大活動)にアメリカのNSAから流出した「EternalBlue」や「DoublePulsar」といったツールを悪用している。

もちろんEternalBlueやDoublePulsarのみならず、NSAは他にも強力なツールを多数持っている可能性がある。もしそれらを駆使してロシアに攻撃を加えたとしたら、ロシアの社会に甚大な被害が出ることは間違いない。

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