ロシア政府に都合の悪い情報は次々と削除
ロシアとウクライナとの停戦交渉に少しずつ変化が見られるようになった。ロシアとしては、勝利と呼べるだけの戦果をあげ、それを盾に交渉を有利に運びたいところだが、戦況は依然として膠着状態だ。その要因は情報戦での失敗だ。
ロシアの通信規制当局ロスコムナゾルは、ロシア軍がウクライナへの侵攻を始めた2日後の2月26日、独立系メディアに対し、ロシア軍のウクライナでの軍事行動を、「攻撃」や「侵攻」といった表現で報じた記事の削除を要求した。
これを受けて、ノーベル平和賞受賞者のドミトリー・ムラトフ氏が編集長を務める独立系の新聞「ノーバヤ・ガゼータ」は、要求からおよそ1カ月後、休刊を余儀なくされている。
情報統制はさらに続き、3月に入ってからは、SNSのTwitter、Facebookもロシア国内でのアクセスがブロックされた。
モスクワ在住のロシア人に聞けば、3月下旬までは、海外のSNSにアクセスできるVPN(ヴァーチャル・プライベート・ネットワーク)を使用すれば閲覧することができたが、今はほとんど使用できなくなり、ロシア発祥のSNS「テレグラム」も、政府にとって都合の悪い情報は検閲によりかなり削除されているという。
21世紀型の戦争はデジタルが鍵を握る
情報統制のあおりを受けたのは、独立系メディアやSNSだけではない。国営のロシア通信も、侵攻して2日後の2月26日、「ウクライナはロシアに戻ってきた」などとする戦勝を祝うような記事を配信した後、すぐに削除している。
3月14日には、ロシア国営テレビの女性スタッフが、生放送で「反戦」を叫ぶ珍事も起きたが、それを除けば、国内での情報統制は想定通り進んだと言っていいかもしれない。
ところが、現段階で言えば、ロシアはウクライナに情報戦で負けている。
21世紀型の戦争は、銃火器を使っての攻撃や空爆だけにとどまらない。開戦前もそうだが、開戦して以降も、自国に都合のいい情報だけを公表し、一般市民への海外からの情報は遮断し、反戦機運が高まらないよう徹底して抑え込むことが不可欠になる。
相手国に対しては、サイバー攻撃や通信基地への攻撃を行い、デマを流したり、相手国の軍を違う目標に誘導したり、あるいは、インターネットやSNSを使用できなくしたりするデジタル戦争も重要な鍵となる。