「2014年から大きな進歩があったようには見えない」
2014年、ロシアはクリミア半島を強引に併合した。これは単に軍事力だけによるものではなく、現地のロシア語系住民の扇動、特にサイバー戦や情報操作、ネット空間での情報の遮断による人間の集団心理の誘導を組み合わせて行われた。まさに「ハイブリッド戦争」の成果とされたのだ。
行政施設や軍事施設、報道機関などの物理的制圧は軍の特殊部隊などが実行したが、扇動されたロシア語系住民の支持を受け、ロシアはわずか3週間ほどで、200万人以上が住んでいたクリミア半島をウクライナから奪い取ったのである。
その後に始まった東部ドンバス地域での過去の戦闘でも、ロシアはサイバー攻撃によってウクライナ軍の通信や電子装備を使えない状態に追い込んだ。翌2015年にも、電力システムを攻撃して大規模な停電を起こさせるなど、ウクライナ社会に打撃を与えている。
「こうした成功体験のためか、今回のウクライナ侵攻で確認されているロシアのサイバー攻撃は、2014年当時から大きな進歩があったようには見えない。だから有効な破壊もできていないのではないか」と、サイバーセキュリティソフトウェアの開発を手がけるトレンドマイクロの岡本勝之氏は分析する。あまりに華々しい結果を出したため、慢心に陥ったというのだ。
ベラルーシ部隊とも連携がとれていない?
逆に、ウクライナ側はこの敗北から学んでいた。サイバーに関する知識・技術を高めるため、世界最高のサイバー攻撃・防御能力を持つアメリカのNSA(国家安全保障局)など西側の専門家を招いて、軍や情報機関がトレーニングを受けたとされている。このアメリカの支援の力は大きく、それが今回の“勝利”につながったのだろう。仮にロシア側が果敢に新手の攻撃を仕掛けたとしても、ウクライナ側がそれを完璧に防御したとすれば、攻撃自体が表に出ないこともあり得る。
また、今回のロシアからのサイバー攻撃は、ベラルーシのハッカー部隊と合同で行っているという見方がされている。サイバーセキュリティ業界では、何らかの事情でこの両者の連携が取れておらず、本来の力を発揮できていなかったのではという推測もある。
<得意なのは軍事パレードだけ…「軍事力世界2位」のロシア軍はなぜこれほどまでに弱いのか>でも述べたとおり、ロシア軍は初戦で部隊間の連携がうまくとれていなかったが、サイバー戦においても同じ問題を抱えていた可能性もある。