ウクライナがSNSで「サイバー義勇兵」募集
サイバー戦は、国家単位で行われるだけではない。トレンドマイクロのようなサイバーセキュリティ企業は多数あるし、MicrosoftやESETのようなソフトウェアメーカーも、顧客を守る観点からマルウェアの情報を公表し、事実上、ウクライナのサイバー防衛に協力している。政府と直接セキュリティの契約を結んでいる企業も複数あると見られる。
また企業のみならず、混乱に乗じる形で複数のサイバー犯罪集団、いわゆるハッカー集団も入り乱れている。例えば世界的に最も有名なハッカー集団アノニマスは、完全にウクライナ側に立ってロシアへのネットワーク攻撃を行っている。サイトをダウンさせたり、情報を窃取して暴露したり、テレビのシステムをハッキングしてウクライナのプロパガンダ映像を流したり、といった具合だ。
ウクライナ政府も、SNS上で「IT Army of Ukraine(ウクライナIT軍)」としてハッカーを募り、ロシアの政府や企業のサイトへの攻撃を呼びかけている。いわば国家が世界からサイバー義勇兵を集めているわけで、こういう事例は過去にない。
犯罪を大目に見てもらう代わりにロシア側につく組織も
一方、ロシア側に加担しているハッカー集団も存在する。その一つが「Conti」と呼ばれる、ランサムウェアの使い手だ。かねてロシアに拠点があると噂されていたが、今回の件でその疑いはかつてないほど強まった。
「ランサムウェアを使うハッカー集団は、もともとロシアもしくはロシア周辺に拠点を置いていることが多い」と岡本氏。サイバー犯罪をロシア当局に大目に見てもらう代わりに、ロシア政府に協力しているとアピールしている可能性があるという。
ただ、彼らの内部で仲間割れがあったのか「我々はどこの政府にも味方しないが、ロシアに攻撃があった場合には反撃する」というよくわからないメッセージも発している。ハッカー集団の特性として、ロシアに拠点があってもロシア人ばかりとはかぎらない。中には反発する者もいたと見られる。
もう一つ、気になるのがNATO、とりわけ米軍とサイバー戦の関係だ。全面戦争への警戒から、リアルの戦闘には建前上、関与しない姿勢を貫いているが、開戦直後の時点ではNATOのサイバー軍が大きく動いた形跡はないとされてきた。もしサイバー攻撃を仕掛ければ、ロシアへの戦闘行為と見なされて反撃を受けたり、場合によっては物理的な報復に発展したりするリスクがあるからだ。