サハリン州の援助金と安全操業協定の関わり

突然のことでしたから、私はすぐ調べてみました。すると、日本がほぼ毎年ロシアに提供してきた「サハリン州経済改革促進等特別援助費」が、昨年度だけ支払われていないことがわかりました。

サハリン州の援助金は、安全操業協定の条文には含まれていませんが、北方領土周辺海域での安全操業のために、いわばセットとして作った仕組みです。協定の調印前の1997年12月にロシアが要求し、「安全操業協定によって漁場を奪われるのではないか」というサハリン州の漁業団体の不安を和らげるために日本が合意した経緯があります。「初年度限り」を想定していましたが、ほぼ毎年支出しています。

岸田内閣は私の質問主意書に対して、「サハリン州に対する支援が安全操業協定の実施の前提条件であるかのように両者を結び付け、一方的に『協定の履行を停止する』としたことは遺憾」と回答していますが、両者はセットになっていたのが実態です。

しかも、2021年度予算として計上済みだったお金です。役所というのは、なるべく年度末まで予算を執行せずに置いておく習慣があります。このお金も、年度末の3月までに払えばいいと思っていたら、2月にロシアがウクライナへ攻め込んでしまったため、支払いのタイミングを逸してしまったということでしょう。

だからロシア側は、「約束を守らないならば、安全操業協定を停止しますよ」と言ってきた。これが真実です。

外務省は動き出しているが、間に合うか

そもそもこの協定は、北方四島の周辺12カイリ(約22.2キロメートル)内における、わが国漁船の操業に関する協定です。現状をロシア側から見れば、北方領土は自国の領土ですから、領海内での操業となります。自国の領海内で他国に魚を取らせている例はほかにないはずです。日本も、他国に対して全く認めていないことです。

ザハロワ報道官の発表に対して、松野官房長官は記者会見で、

「まず第一に、漁業関係者の操業の安全を確保するために全力を尽くしたい」

と言いました。ロシアは魚を取らせないと通告してきたのですから、「操業の安全を確保する」も何もありません。まったく的外れの答弁でした。

北方領土周辺水域内での操業に関して、日本は毎年ロシアと交渉して、漁獲量や支払う協力金の額を決めています。今年度分に関しても、漁獲枠はホッケやスケトウダラなど計2177トン。協力金は2130万円などの条件で、すでに合意に達しています。

ところが昨年度にサハリン州に支払うべきお金、その予算に計上されている「サハリン州経済改革促進等特別援助費」が執行されていません。そのため、ホッケ漁が実施できるかどうか、危ぶまれているのです。

9月16日から漁を始めるためには、8月中に許可証を取得しなければいけません。サハリン州との協力事業は、経済制裁とは別なのです。外務省は動き始めていますが、一刻も早くケリをつけ、漁業関係者を安心させてほしいものです。

(構成=石井謙一郎)
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