ロシアに「送金」「書類送付」ができない事態に

私が水産庁の資源管理部に確認したところ、ロシアが主張するEEZ内において、日本の漁船が魚群を探索したことがあったそうです。漁はしていないというのですが、探索するというのは取ることが前提だと見なされても仕方がありません。

つまり日本側にマナー違反があったために、ロシア側は態度を硬化させた。拿捕される心配はないと私は思っていますが、日本の漁船はトラブルを恐れて、ロシアのEEZを迂回すると決めたわけです。燃料費も高騰していますから、そうやって増えたコストが小売り価格に上乗せされてしまうとすれば、残念なことです。

8月14日の日経新聞は、別の問題を報じています。

水産庁や漁業団体によれば、ウクライナへの侵攻に対し欧米や日本が経済・金融制裁を打ち出した後もロシア側がこの合意を覆したり、手続きを拒んだりする動きはない。ロシア海域で例年通り操業するメドが立たない要因は送金、書類送付といった手続きが進まない実務上の問題にある。

ここで〈この合意〉と言っているのは、日ロ間に4つある漁業協定のうち、「日ロ地先沖合漁業協定」のことです。おおむねこの記事の通りです。

日本の漁船がロシア海域で操業する際には、日本船は必ず監視システムを装備し、位置情報をロシアの監視センターに送らなければならない。その管理料などが求められる。ところが、ロシア側の金融機関が制裁の対象になり、支払い手段が断たれた。また、漁業許可証などを出してもらうために必要な書類は国際宅配便で送る。だが、ロシア向けの国際宅配便サービスが停止している。

すべての金融機関が制裁を受けているわけではありませんから、支払い手段として使える金融機関を探せばいいんです。必要な書類は、ロシアから来る分はスムーズなのですが、ロシア向けの国際宅配便サービスは制裁の対象なので、停止しています。そのため、漁業許可証を出してもらうための書類が送れないのは事実です。

しかし人が直接行き来することは可能です。工夫すれば、方法はいくらでもあるはずです。

撮影=原貴彦

突然ロシアに突き付けられた「履行停止」

現在差し迫っている問題は、9月16日から北方四島周辺で行われるホッケ漁です。

ロシア外務省のザハロワ報道官は6月7日、日ロ間で結んだ「北方四島周辺水域操業枠組協定」(安全操業協定)の履行を停止すると発表しました。

「日本政府は、この協定が機能するために不可欠な、サハリン州に対する無償の技術支援の提供に関する文書への署名を遅らせ、協定に基づく支払いを『凍結』する方針をとった」

などと一方的に非難し、

「日本側がすべての財政的な義務を果たすまで、1998年の協定の履行を停止する決定を下さざるをえない」

と通告してきたんです。