有料会員制にすることで顧客と長期来な関係を結ぶ

【山本】この状況を改善するためには、センター化によってある程度の利益が出せるモデルを作り、なおかつ、基本的に欠品がない状態を作っていくことが必要です。ただ、利益を出していくには相当の工夫と努力が必要であり、配送と庫内作業が大きなポイントになります。なによりも差別化しないといけないのは商品でしょう。この三つをどうやって磨き上げるか。私たちはダークストアやネットスーパーの一部店舗でさまざまなテストをしながら、試行錯誤を重ねています。

【田中】先ほど、スーパーサンシの事例でネットスーパー黒字化の四つのポイントを挙げましたが、実は二つ目の有料会員制が一番のポイントだと思っています。本質はサブスクという支払い方法ではなく、カスタマーセントリックにのっとって、顧客といかに長期的な友好関係を結ぶかという点にあります。

スーパーサンシの取り組みは形式的にはネットスーパーですが、実際は一人ひとりの顧客と有料会員制を起点につながり、親密な関係を構築するという、生涯価値的な発想のビジネスモデルです。一人ひとりの顧客といかに継続的に取引していくかという発想がないと黒字化はできないでしょう。有料会員制に踏みきれるか、きちんと料金がチャージできるか、それによって取引が伸ばせるかどうかがすごく重要だと思いますが、この点はどのようにお考えでしょうか。

「使いたいだけ使う」ではなく「継続的に使う」スーパーでありたい

【山本】有料会員制という形を取るかどうかは別として、私たちもお客さまと継続的な関係を築いていく必要があると思っています。今のネットスーパーのビジネスは極論をいえば、雨が降るとお客さまの需要が上がるモデルです。お客さまが使いたいときに使う場所ではなく、継続的に使っていただく場所にしていく。

私は生協が実現しているお客さまとの関係は一つの目標になると思っています。定期配送で鮮度の良い商品や総菜類を提供して差別化を図り、それぞれのニーズに合わせた関係性を構築できれば、お客さまに価値を認めてもらえると思っています。

【田中】私は、ネットスーパーを統括する執行役員の柴田さんとも親しくさせていただいていますが、イトーヨーカドーのネットスーパーは柴田さんをはじめ、皆さんがカスタマーセントリックを志し、本気でコミュニティづくりをしようとしています。対談前半でもコミュニティという言葉が出てきましたが、そのこだわりを教えてください。

【山本】これから日本が人口減少社会になっていく中で、街自体もコンパクトになっていくと予想しています。そうなるとポイントになるのは行政とスーパーと病院、そして交通インフラです。私たちは比較的駅に近く、行政機関とも近いところに店舗を持っています。店舗が地域のコミュニティになることで、お客さまに選ばれる価値になると考えていますし、ネットスーパーもお客さまのラストワンマイルを埋めるインフラになると思っています。

もっといえば、インフラとして私たちの商品だけを配送するという考え方は持っていなくて、他の事業者にも使っていただくことで、プラットフォームになっていけるでしょう。