【田中】そういった意味では、冒頭にもでてきた「信頼と誠実」に尽きるかなと思います。現在、店舗の統廃合が進んでいますが、黒字・赤字だけではなく、それぞれの店舗がコミュニティにおいてなくてはならない存在であることも重要です。一つでも多く刷新して残していただく。それこそが最も地域に対するSDGsへの貢献ですね。
従業員の雇用の場を奪う店舗閉鎖は今後止める
【山本】業績が厳しい中、ここ数年で店舗閉鎖を進めてしまいました。店舗を閉めるということは、地域に多大な影響を及ぼしています。従業員の雇用の場としての責務が果たせなくなることは、今後止めたいと思っています。
先日閉店する店舗に行き、従業員の「最後までがんばります」という言葉を聞いて本当に涙が出るような思いでした。私がやらなければいけないのは、閉店をしたことによってその地域の方にどれほどご迷惑をおかけしているのか、従業員が雇用の場をなくしたことを認識し、今まで以上に努力をすることで、「イトーヨーカ堂って凄い会社だね、素晴らしい」といわれるよう再生していくこと。元働いていた方が将来、イトーヨーカ堂に勤めていたと胸を張っていえるような会社にすることが私の使命だと思っています。
【田中】魅力的な地域のコミュニティにするための秘訣がだいぶ見えてきた感じがしました。もともと顧客中心の商売をされていましたが、デジタルの時代だからこそやるべきカスタマーセントリックに切り替えている。山本社長は着実に手を打ち始めていらっしゃると感じ、心強く思いました。最後に、社長としての抱負をお聞かせいただければと思います。
従業員の提案の背中を押すことが顧客との関係構築の近道
【山本】私一人でできることは限られていますが、私がやるべきことは、同じ思いを持ち、行動を変えていく人を一人でも多く作っていくことだと思っています。そういったことを期待しながら日々店舗をまわり、従業員と話をしています。
従業員の「こういうことをやりたい」という意見に対して、「失敗してもいいからどんどんチャレンジしよう」と背中を押してあげる。そういったことができれば、私には思いつかないさまざまな新しい発見や方法、ビジネス、お客さまとの関係性が作れると思っています。私が答えを出すのではなく、従業員の意見を引き出して、行動を変えていく。これが遠回りのようで一番の近道じゃないかと思っています。
数字だけを上げるなら、別の手段で一時的に上げることもできます。しかし100年経った会社を次の100年につないでいくためには、こういうところを変えていく必要がありますし、結果として近道であり、他社が真似できないことだと思っています。
【田中】現場にいる一人ひとりの従業員を活かすことで店舗も活かされ、顧客にもより満足される。従業員の声や個性を活かすことが差別化になりますね。
【山本】そう思います。小売業は商品を介してお客さまと接していますが、究極は人対人の関係です。従業員には仕事を楽しんでもらいたいですし、楽しい仕事をやっていれば、お客さまには伝わるはずです。「これをやりたいです」という声に「いいよ」と応えられるようになれば、仕事は前向きに楽しくやれると思いますし、そうしていきたいと思っています。
【田中】すばらしいですね。これからイトーヨーカドーに行くたびに、働いている人もお客さまも生き生きしているなと感じることでしょう。本当に今日はご多忙の中、貴重なお時間をいただきましてありがとうございました。
【山本】こちらこそありがとうございました。