ネットスーパーは実店舗より広い顧客と関係を築ける

【田中】ネットスーパーは個々の顧客とつながる機会であり、一回の取引だけではなく、長期的に友好な関係性を構築する機会でもあります。だからこそ山本社長も力を入れていこうとされているのでしょうね。

【山本】実店舗は商圏が限られますが、ネットスーパーならもっと広いお客さまとの関係性を築けるチャンスがあると思っています。難しいのは、ビジネスモデルをきちんと組み立てられるかどうかです。やらないのではなく、どう乗り越えるかをお客さま中心に考えていくことが必要だと思っています。

【田中】ネットスーパーには大手各社がかなり力を入れていますし、顧客のニーズも高まっていますから、今後定着していくでしょう。一方で、どこが黒字化するのか、本当に持続可能でサステナブルなビジネスを構築できるのかについては、いまだ不透明な状況です。重要なのはどこに注目するかです。顧客を見るか、海外など外を見るかで明暗が分かれてしまいますから、引き続き山本社長には顧客を中心に見据えてネットスーパーを黒字化していただきたいと思っています。

【山本】私は現場から離れて長いのと、営業もしばらくやっていません。その結果、私が社内の誰よりも持っているのはお客さまの視点です。その軸をブラさないことが大事だと考えています。カスタマーセントリック、お客さま中心に考えていくことが大事だといい続けること、やり続けること。これが最終的には勝てる商売になると確信しています。

イトーヨーカ堂社長 山本哲也氏(左)と、立教大学ビジネススクールの田中道昭教授(右)
写真=デジタルシフトタイムズ
イトーヨーカ堂社長 山本哲也氏(左)と、立教大学ビジネススクールの田中道昭教授(右)

安さや品揃えの豊富さだけでは顧客に選んでもらえない

【田中】重要なのは商売の原点に立ち返り、店舗は顧客のためにあるという考えを持ち続けることですよね。最後の質問になりますが、『ビッグ・ピボット なぜ巨大グローバル企業が<大転換>するのか』という本を著したサステナビリティの専門家アンドリュー・ウィンストンは、「これからはもっと暑くなる、足りなくなる、隠せなくなる」といっています。

暑くなるというのは気候変動、足りなくなるというのは資源問題、隠せなくなるというのはガバナンスやコンプライアンスの問題を指しています。総じていうとESGやSDGsのことですが、イトーヨーカ堂全体のそれらに対する取り組みと、社長としてのこだわりについて教えてください。

【山本】私たちのような大型商業施設を持つからこそ、より地域との関わりを深め、地域に対してどんな貢献ができるのかを考える視点が大切です。そこに環境への取り組みや、買いもの難民の方に対する取り組みが入ってくると考えています。

お客さまに選ばれる基準はこれまでのような安さや品揃えの豊富さだけではなく、本業を通じて社会課題の解決に取り組んでいるかどうかです。それらの課題に取り組むことで、「イトーヨーカドーは街のことを考え、環境問題にも積極的に取り組んでいる」と応援してもらえるようになり、私たちももっと頑張ろうという好循環が生まれます。この関係性がすごく大切だと思っています。

6月の環境月間には、私たちが今できていること、やろうとしていることについてお客さまにお伝えする機会を設けました。地域との直接の関わりは本部だけではできません。店舗が地元との包括連携協定を結んだり、取り組みを積み重ねていくことで私たちの店舗を選んでいただけるようになりますし、そういったことがこれからは大切になってくると思います。