夕焼けが嫌い
やっぱり子どもだったから、死ぬとか怖いとかいうよりは、とにかく食べ物がないことが一番でしたけど。本当にお腹がすくほうが。それとシラミとかノミっていうのわかります? 女の子は髪が長いから特にね。ノミなんか跳ぶんですよ。真っ白にDDT(殺虫剤)を頭からかけてね。入浴もできないし、着替えするものもないんだからね。着たきり不衛生。それがみんなだから。
こうして日常生活する中で、年に何回かもう真っ赤に染まる夕焼けがあるよね。
人の顔も赤く染まるぐらいの夕焼け。あの夕焼けを見たらね、広島の八月六日の夜のこと、思い出す。夕焼けが嫌いなんですよ。本当に私にとったらもう真っ赤だったから。三日三晩、広島は燃え続けたからね。あのときのことはもう思い出したくない。八月六日に私は助けてあげるどころじゃなくて、瓦礫でつまずいたまま死んでいくたくさんの人を置いて逃げたんよ。
私のもんぺに小さい女の子が、しがみつくように「助けて、助けて」ってね、あの目がね。私は助けてあげるどころじゃなくて本当にあの、もう哀願っていうんかね。瓦礫につまずいて、「助けて」って私のもんぺを捕まえたときのあの目が忘れられない。私それを置いて逃げたんだから。