「汚職の撲滅」はEU加盟の条件でもある

ウクライナは最近、「アメリカから供与された高機動ロケット砲システム『ハイマース』が威力を発揮して、大きな戦果を上げている」と誇示しています。しかし7月末で16基にすぎず、そのうち4基はロシアに壊されてしまった(ウクライナは否定)というのでは、戦果も限られるはずです。

さらに、供与に伴うアメリカ側の条件で、ハイマースでロシア本土を攻撃することはもとより、ロシアの補給路であるクリミア大橋を攻撃するのもいけないと手足を縛られているのです。アメリカに管理された戦争を戦っている限り、ウクライナに決定的な勝利は望めません。アメリカの目的は、戦争を少しでも長引かせてロシアに打撃を与えることだからです。

SBUの長官には、第1次官を務めていたマリウク氏が代行として起用されました。検事総長の後任には、7月28日にコースチン議員が選ばれました。同じ28日、政権の高官による汚職犯罪の捜査と起訴を担う「特別汚職対策検察(SAP)」の新しいトップに、オレクサンドル・クリメンコ氏が任命されたことも発表されました。

ウクルインフォルム通信によると、イェルマーク大統領府長官は次のようにコメントしています。

「独立した汚職対策インフラは、ウクライナの民主主義の重要な要素だ。汚職との闘いは、私たちの国家にとっての優先課題である。なぜなら、その成功に、私たちの投資の魅力とビジネスの自由がかかっているからだ」

裏返せばウクライナには、それだけ汚職がはびこっているわけです。汚職の撲滅は、ウクライナがEU加盟国の地位を与えられるために課された条件のひとつでもあります。道のりは遠いといえます。

ロシアが虎視眈々と狙っていること

裏切り者がいるせいで勝てないという説明は、戦争中の国家として、かなり苦しい言い訳です。マイダン革命以降、ウクライナは8年間、非ロシア化の徹底を図ってきましたが、思うように進んでいない現実が浮き彫りになりました。

こうした内実は、ウクライナ国家の中枢が体をなしていないことを示しています。末端の官僚だけでなく、政権の中枢から国の行く末を憂慮してロシアと手を組もうと考える人が出てこないとも限りません。ロシアはそれを、ずっと待っています。

戦局を見据えながら、両国が折り合いをつけて停戦に向かうのか。ウクライナが国の内側から瓦解がかいして、思わぬ形で戦争が終わるのか。それとも、劣勢のゼレンスキー大統領が首都キーウを離れて西部のガリツィア地方へ逃れ、国が東西に分断されるのか。さまざまな可能性が出てきたように感じられます。

もっとも日本の国際政治学者やウクライナ専門家の大多数は、これからウクライナが反転攻勢を行って、ロシア軍を駆逐する可能性があるとまだ信じているようです。

(構成=石井謙一郎)
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