まったく打てる気がしなかったダルビッシュ
僕はダルビッシュ有の投球を受けたことはないが、日本ハム時代の2006年と07年の日本シリーズで打者として対戦している。両年ともダルビッシュは1勝1敗で、2006年は日本ハム、07年は中日が日本一だった。
僕は1998年の対西武をはじめ日本シリーズに6度出場、計27安打しているが、ダルビッシュから打ったヒットは、トップ3に入るぐらいうれしいヒットだった。内角高めのストレートを詰まりながらセンター前に持っていった。
ダルビッシュの球は全部が脅威で、自分のなかでは打てそうな雰囲気がまったくなかった。だから、どの球種を狙って打ちにいったというより、各打席で来そうな球を単純に狙った。
初めて僕と対戦した日本シリーズの2006年から、ダルビッシュは6年連続2ケタ勝利、07年から5年連続防御率1点台という成績を残した。
メジャーでも、2013年に野茂英雄さんに次ぐ日本人2人目の最多奪三振のタイトルを獲得した。シーズン277奪三振で、9イニング平均奪三振は11.89個。これは2019年の、千賀滉大(ソフトバンク)の日本記録11.33個を上回る。メジャーにおいて日本記録を上回る驚異的な数字を残したわけだ。
2020年は新型コロナの影響で大幅に縮小されたとはいえ、シーズン全60試合で8勝を挙げ、日本人初の最多勝に輝いた。
11種の変化球すべてが勝負球になる
「一種の表現なので、変化球というのは。セットポジションから動き出すそのタイミングから、キャッチャーのグローブに収まるまでが一つの変化球。一つのアート」(『クローズアップ現代+』NHK総合、2021年4月14日)――そうダルビッシュが語っているだけあって、変化球は多彩だ。10種類とも11種類ともいわれ、代表的なものはスライダー、カットボール、シンカー、カーブ、フォーク、チェンジアップ……。
球種が11種類もあれば、どれかは劣るものだ。しかし、ダルビッシュはそれどころか、全部を勝負球で使える。11種類を操るだけの技術を持っているということだ。だから僕が対戦した投手のなかで、圧倒的ナンバーワンはダルビッシュだ。
一方で、もっと勝っていてもいい投手だと思う。その要因はケガであったり、チーム事情で勝ち星が伸びなかったりということもあるだろう。打順・相手打者・自分の体調・感情によって、少し手を抜くというか、スタミナ配分を考えているようにも感じる。もし一切手を抜かずに投げ続けたら、とんでもない成績を残すはずだ。
だが逆にいえば、ダルビッシュほどの投手でも勝てないときはあるのだから、野球はやはりバッテリーで協力しなくてはならない。あらためてそう思う。