今シーズン、プロ野球では4人のノーヒットノーラン達成者が生まれている。これは戦後の記録では一番多い。スポーツライターの広尾晃さんは「各球団が『トラックマン』などの弾道測定器を導入した影響だろう。球の回転数や軌道などを詳細に分析できるようになり、投手は次々と新しい投げ方を習得できるようになった」という――。
完全試合を達成し、ウイニングボールを手に喜ぶロッテの佐々木朗希=2022年4月10日、千葉・ZOZOマリンスタジアム
写真=時事通信フォト
完全試合を達成し、ウイニングボールを手に喜ぶロッテの佐々木朗希=2022年4月10日、千葉・ZOZOマリンスタジアム

プロ野球始まって以来の「異例の事態」

毎年、プロ野球では「異例の記録」がいくつか飛び出すが、今シーズンは「ノーヒットノーランの大量発生」が一番だろう。すでに4例生まれている。

4月10日 佐々木朗希(ロッテ)オリックス戦※完全試合
5月11日 東浜巨(ソフトバンク)西武戦
6月7日 今永昇太(DeNA)日本ハム戦
6月18日 山本由伸(オリックス)西武戦

ノーヒットノーランは、投手が無安打、無失点で勝利した試合。無安打、無失点だけでなく、無四死球、無失策で勝利した試合は「完全試合」となる。両記録共に一般的には単独投手の記録を言うが、複数の投手による達成も「参考記録」となる。

ノーヒットノーランはこれまで86人が97回達成している。今年でプロ野球が始まって86年だから年に1回出る程度の頻度だ。

しかし、今季はすでに4回。それも佐々木の完全試合をはじめ、東浜は2与四球残塁なし、今永と山本は1与四球の準完全試合とすべてハイレベルだ。

さらに佐々木は4月17日の日本ハム戦では8回までパーフェクトを記録。中日の大野雄大は5月6日の阪神戦で9回パーフェクトながら味方の援護がなく延長10回に安打を打たれ、大記録を逃している。

シーズン4回のノーヒットノーランは1940年の5回に次いで、1943年とともに2位タイだが、2つの先例は戦前の話。戦争前後は物資不足で、中古ボールも使っていたためボールが飛ばず、極端な「投高打低」だった。

当時とは比較にならない恵まれた環境の今、なぜ投手が打者を圧倒する大記録が続々と生まれているのか?

コロナ禍だけでは説明がつかない

一つには、コロナ禍によって、各球団に陽性者が集団で発生し、満足に打線を組めなかったことがある。打者は春季キャンプから体を作り、バットを振り込んでコンディションを上げていく。また通常、チームは打線を固定させて「役割」を各打者が自覚して打席に立つことで得点力を上げていく。

陽性者が続出したことで練習不足に加え、満足に打線が組めなかったことが「打低」につながったという。

確かにそれも一因ではあろうが、それだけでこの現象を説明することはできない。今回の極端な「投高」の背景には、ここ数年に起こった「投のイノベーション」があったことは間違いない。