自分の投球をデザインする時代に

MLBのシンシナティ・レッズでサイ・ヤング賞(その年に最も活躍した投手が選出される賞)を受賞したトレバー・バウアー(現ドジャース)は、2019年オフ、法政大学で行われた「野球科学研究会第7回大会」にゲストで登壇し、自らの投球のトラッキングシステムのデータを示しながら「来年は回転数を何%向上させ、回転軸を何度傾けて、こういう軌道の球を投げたい」と説明した。彼は、こうした機器を駆使して「自分の投球をデザイン」しているのだ。

同じ球速でも回転数が多ければ打者からはホップしている(浮き上がる)ように見え打ちにくくなる。また回転軸の角度によって投球はシュート(投手の利き腕方向に変化)したりスライド(投手の利き腕と逆方向に変化)したり、さまざまな動きをする。さらに投球の軌道によって、打ちにくい球になる。

投球しようとしている若い投手
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データを駆使すれば、激しい投げ込みは必要ではない。手先と身体全体が感覚として新しい球種を覚えれば、あとは実戦で試すことで会得できるのだ。ダルビッシュ有や大谷翔平を含め、一線級の投手はこういう形でカットボールやチェンジアップなど新しい球種を手に入れ、進化し続けているのだ。

データによって大きく変化したこと

遅ればせながらNPBでも2015年ごろから「トラックマン」の導入が進んだ。

トラックマンは球場に設置し、試合での両軍選手の投球、打球をオンタイムで数値化する。当初はデータを見ても評価できる専門家がおらず、十分に活用できなかったが、各球団は次第にこのデータを使いこなすようになった。

導入から1年経った頃から、投手は降板後、トラックマンのオペレーターに自分の投球のデータについて聞きに来るようになった。自分が打ち取った球、打たれた球がどんな回転数、回転軸で、どういう軌道を描いていたかを知りたがるようになったのだ。

球団もデータ専門のアナリストを雇用するようになる。

ある球団のブルペンコーチは話す。

「昔はフォームや配球などを投手に手取り足取り指導したが、今はアナリストと一緒に考えるようになった。コーチの主な仕事は投手の動作から故障のリスクを見つけたり、メンタル面の不安を取り除いたりすることになった」

そういう形で、ゆっくりではあるがNPBの投手たちも「情報武装」するようになったのだ。

今年、ノーヒットノーランを達成した4人の投手はいずれもチームのエース級だ。彼らはトラックマンをはじめとするデータを駆使して自らの投球をチェックし、打者ごとの攻略法も組み立てている。そうした情報武装にコンディションがシンクロすれば、ノーヒットノーランのようなスーパーピッチが可能になるのだ。