終身雇用が前提となっていた時代、個人はキャリアパスや就労場所もすべて会社に委ね、それと引き換えに会社は社員の定年まで面倒を見るという了解があった。それはお互いが拘束しあう相互拘束型の関係ともいえるだろう。しかし現代では、1人のキャリアを1つの会社が責任を持つことは難しくなっている。
社員の「働きがい」が向上すれば売上高も上がる
これからの時代は、会社と個人が相互に拘束するのではなく、相互に選び合うようなフラットな「相互選択型」の関係になることを前提とした経営が求められているのではないだろうか。
「働き方改革」を行いながら、社員の意欲や生産性を向上させている企業も当然ある。そうした企業の特徴は、「働きがい改革」を行っていることだ。信用調査システムを手掛ける「クレジット・プライシング・コーポレーション」西家宏典氏による、OpenWorkの社員クチコミを分析した2021年の論文(※)では、「働きがい」の向上は2~3年後の売上高にプラスの影響を及ぼすことが分かっている。
働き方改革によって多様な人材の労働参加率を上げるのと同時に、働きがい改革によって社員の意欲を引き出し、創造性や労働生産性の向上を図る。外部環境が大きく変化する中で、働きがいを上げるには変化に合わせて柔軟に対応できる、ある種の「運動神経」が重要になる。
※西家 宏典, 長尾 智晴(2021)「従業員口コミを用いた働きがいと働きやすさの企業業績との関係」、『ジャフィー・ジャーナル』2021年 19巻、p. 79-96
「働き方改革」だけでは20代に選ばれない
例えば、コロナ禍で緊急事態宣言が発出された後、OpenWorkへ投稿される評価スコアにも違いが表れた。同じ業界の企業でも、緊急事態宣言の発出後すぐにテレワークに切り替えた企業や、即座に飛沫防止シートを導入したスーパーなど、従業員の健康に配慮し、環境変化に対応する瞬発力のあった企業は評価を高めた一方で、そうではない企業は評価を下げた。
評価スコアの低い企業のクチコミを分析すると、「年功序列」「旧態依然」「アナログ」といったキーワードが並んでいる。変化が激しい時代だからこそ、環境変化に合わせて古い体質を変える勇気が必要だ。
転職を前提にキャリア形成を考え、他者を意識しながら、より魅力的な働き方を常に探している20代の若手社員。そうした考え方を受け入れ、選ばれる会社になるために、「働き方改革」を超えた「働きがい改革」を続けていく必要があるのではないだろうか。