電気マットの上でぬくぬく…徐々に回復していく

もちろん、元気に回復する子もいる。保護されたアザラシが無事に一夜を越えれば、翌朝、まずは、前日と同様に聴診および体温測定をして、アザラシの状態を確認する。その後、コンテナへ入れて体重を量り、そのまま個室の掃除を行う。

掃除の際、排泄物の色は正常か、異物や寄生虫が出ていないか、吐き戻しはないかなど、一つひとつ確認しながら行う。個室に戻したあと、汚れていれば体を洗う。タオルで水気をよく拭きとり、再び電気マットの上に戻して背中に乾いたタオルをかける。

その日の気温やアザラシの状態にもよるが、紋別は春を迎えてもまだ寒く、日中も電気マットを使用している。たいていの子は、暑ければ転がってマットから降り、自分で温度調節する。

電気マットが温かいことを覚えると、マットを敷いた途端に自らマットの上に乗るようにもなる。ある程度元気になり、体温維持の不安がなくなれば電気マットを敷くのをやめるが、そうすると今度は、自分で暖かい日向を見つけて、日向ぼっこをしながら昼寝をするようになる。

飼育員が強制的にミルクを飲ませる理由

掃除が終わったら、次は給餌だ。餌は、ホワイトコートの換毛の程度を考慮して、保護個体の週齢に合わせたものを用意する。全身ホワイトコートで、引っ張ってもまだ毛が抜けないようであれば、海獣用のミルクから与える。アザラシの母乳中には、脂肪分が40~50%含まれている。牛乳に含まれる脂肪分が2~4%であることを考えると、かなり濃いミルクである。海獣用の粉ミルクにも同程度の脂肪が含まれており、これをぬるま湯で調乳する。

ミルクの給餌は強制給餌で行う。なぜ強制給餌なのかというと、想像してみてほしい。

ある日突然、知らない人にさらわれて、知らないところに連れてこられた。翌日、見たこともないものを顔の前に出されて「ほら、飲め」と。私だったら飲まない。保護アザラシたちはそんな状況である。慣れればアザラシも哺乳瓶からミルクを飲むというが、衰弱している赤ちゃんアザラシを前に、そんな悠長なことは言っていられない。手っ取り早く栄養状態を改善するためにも、強制給餌は必要である。

写真提供=オホーツクとっかりセンター
ホワイトコートの赤ちゃんにミルクを与えるチューブをのみ込ませている様子

ミルクの強制給餌は、基本的には飼育員2人がかりで行う。1人がアザラシの上にまたがって保定し、下顎を支えて上を向かせる。ミルクを胃に直接流し込むためのチューブをスルスルとのみ込ませ、給餌が終わるまでこの体勢をキープする。もう1人は、準備ができたらミルクの入ったポンプを押し、胃の中にミルクをゆっくり流し込む。