日本唯一のアザラシ保護施設「オホーツクとっかりセンター」では、日々衰弱したアザラシが救助されている。元施設飼育員の岡崎雅子さんは「運よく保護に繋げられたとしても、そのうちの3割は死んでしまう。それでも、10年間にわたって活動に携わり続けた理由がある」という。アザラシの救助に奔走する飼育員の日々を『寝ても覚めてもアザラシ救助隊』(実業之日本社)からお届けしよう――。

岡崎雅子さん
写真=筆者提供
岡崎雅子さん

保護にこぎつけても助からないアザラシが3割いる

ここ10年の保護アザラシの生存率は70%くらいだ。裏を返せば、30%のアザラシは助からない。そのほとんどが、保護された翌日もしくは2日後に死亡している。そのため、無事に2日目の朝を迎えられると、少しほっとする。

子どもの保護個体の死因でもっとも多いのは、消化管内異物である。解剖してみると、砂や砂利が胃や腸の中から大量に出てくるのだ。おなかが空きすぎて、目の前にあるものをなんでも食べてしまったのだろうか。

生き延びた子のなかにも、砂や小石を排泄する子はいる。運良く、胃や腸に詰まってしまうほどたくさん食べる前に発見されたのだろう。

次に多いのは、寄生虫感染だ。野生のアザラシは、何かしらの寄生虫を体の中にもっている。しかし、何かの拍子にそのバランスが崩れると、幼いアザラシは簡単に命を落としてしまう。解剖すると、胃の中が寄生虫でパンパンだったこともある。

無事に生き延びた子でも、おなかに寄生虫がいると、いくら食べても体重が増えない。そこで保護個体には糞便検査を行い、もし寄生虫が見つかれば駆虫するようにしている。

ここまで、代表的な死因を2つ挙げたが、これらは死因が判明したもののなかで代表的な例である。実際には解剖しても死因がわからないことの方が多い。順調に回復していると思われていた子が、保護から1カ月後に突然死したケースもある。