島耕作の行動規範

それがその後、40年近くも読み続けられ、ぼくの代表作と呼ばれる作品になるのですから、人生は面白いものだと感じます。

弘兼憲史『捨てる練習』(プレジデント社)

読み切りの短編として誕生した「島耕作」を主人公とする作品が、不定期連載を経て、本格的な連載になったとき、ぼくはオフィスラブをテーマにしたファンタジーから、シリアスなサラリーマン漫画へとかじを切りました。

それまでリアルなサラリーマン漫画というジャンルはなかったし、なによりぼくの実体験が生かせる……と思い立ったのです。

そこでぼくは、物語を再構築するために、主人公である島耕作の“行動規範”を定めました。その第一に掲げたものこそ「群れない」だったのです。

品性に欠けると群れをつくる

『論語』に次のような言葉があります。

君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず

君子、つまり徳のある人は、人と親しくしながらも同調はしない。小人、すなわち度量や品性に欠ける人は、すぐに同調するのに人と親しくはならない──。

社会人、それも企業に属する組織人である以上、周囲の人とうまく連携し、協調しなくてはいけません。しかし、自分の意見を捨てて相手に合わせるような“同調”は決してしない──ということです。

また、孔子はこうも言っています。

君子は周して比せず、小人は比して周せず

「周」は「あまねく」、「比す」には「べたべたする」という意味があります。つまり、徳のある人は公平に人と付き合うが、群れない。品性に欠けた人は、群れを作って公平に人と付き合わない──となります。