グループホーム入居を決意

それから1カ月が過ぎても兄から芳しい反応はなかった。

この間、妹は時折、進学の話題を口にしたものの、しつこく迫るようなことはしない。焦らず兄の言葉を待った。そして、そのときはやってくる。ある日、いつものように兄の部屋で雑談していた際、兄自ら「自分は高校中退で、学校に行くにも方法がない。今さら上手く対人関係を築ける自信がない」と告白したのだ。妹は、「私が何とか方法を考えてみるから時間がほしい」とだけ答え、あとはまた雑談に終始した。

兄の恐れる気持ちを言葉で引き出した妹は後日、事の経緯を私に報告してくれた。

ここから第5のミッションである。私は妹と母親を呼び、まず親が役所の福祉課に行き、兄の暴力を含め洗いざらい状況を説明し、グループホームの入所を考えていると告げ、しかるべきサービス管理者の紹介を役所の担当者に依頼するよう伝えた。サービス管理者は、高齢者福祉におけるケアマネージャーに相当するもので、障害者の社会復帰・自立支援のプランを立てる仕事に従事している。

親がサービス管理者と面談し適任者がいれば、その人にC君の自立心を依頼するのである。サービス管理者は、さらにしかるべきグループホームを見つけ、医師の診断を経て、そのグループホームの入所をC君に勧めることになる。彼が承諾すれば国や自治体の一部補助を受けながら、グループホームにおいて自立への模索を実行できるようになる。生活の大半は仕送りに頼らねばならないが、親からすれば偉大な一歩だろう。

果たして、C君は体験入所を経て、正式にホームへの入所を決意した。

「お父さんお母さんは、お兄ちゃんに謝るべき」

いよいよ家を出るという日、妹は最後のミッションをこなしてくれた。

リビングで親子4人全員が顔を合わせた場で、彼女はC君に代わって、お父さんお母さんは、お兄ちゃんに謝るべきだと告げた。その言葉に、父親はあれこれ言いながらも謝罪し、母親は泣いて謝った。つられて泣いた妹の肩を兄は優しく撫でてくれたそうだ。

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私は後日、妹に、C君が高卒認定を受けたら大学か専門学校に進学するだろう、その際には実家と離れた地で学生生活をするよう提案してほしいと告げた。C君が親とのわだかまりを解消する日が到来したとしてもずっと先である。それまで親子は離れていたほうがいい。親子のこじれ解決にはとにかく時間が必要だ。

C君は順調に高卒認定を得た。高校に在籍していた際に取得していた単位があったからだ。その後、グループホームを退所し遠方の専門学校に進んだと聞いたが、以降の人生が順調であるかどうかは定かではない。ただ、何かあったときだけ連絡してくださいという私の言葉を聞き入れてくれているのならば、C君に特別な問題は起きていないはずだ。