今回の事件への対応が「次の悲劇」を生むリスク

今回、マスコミは朝から晩まで惨劇の瞬間をエンドレスリピートして、山上容疑者の「悪名」を日本全国津々浦々に流し、彼の不幸な境遇やその思想を広めている。同じように宗教に憎悪を燃やす人たちに、「皆さんも山上容疑者のようにやれば、あの憎い宗教に復讐できますよ」と教えているに等しい。

いずれにせよ、政府や自民党が旧統一教会を名指しで攻撃して、排除するということは「宗教排除の成功モデル」がつくられるということなので、自民党支持の宗教団体の多くはこの動きに賛同しないだろう。ということは、自民党としては旧統一教会との関係はこのままの「グレー」にしてズルズルと続けていくしかない。

以上のように、自民党が旧統一教会と手を切るのは外交的にも国内の支持基盤的にも難しい。「できない」ことを「やれやれ」と叫んでも不毛なので、もっと地に足のついた議論をすべきだ。

いま本当に必要なのは「宗教被害者」の救済方法だ

例えば、この問題を長く関わってきた紀藤正樹弁護士がワイドショー出演時に、統一教会の2世信者があまりにかわいそうなので養子にもらおうと思った、という趣旨のことをおっしゃっていたが、そういう不幸な子どもを国や自治体が保護して、しっかりと食事や教育を受けさせられるようにする仕組みがまだ足りていない。

父親にボコボコに殴られて虫の息になった子どもがSOSを発しているにもかかわらず、児童相談所の職員が「やっぱりパパと一緒が幸せだよね」と父親の元に送り戻して、死にいたらしめるなんて悲劇がたびたび起きていることからもわかるように、日本は「親権」が非常に強くて、行政は家庭内のトラブルになかなか介入できない。

写真=iStock.com/zubada
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実はこれも自民党支持の宗教団体が掲げる「伝統的家族制度の復活」という思想が色濃く影響しているのだが、こちらのほうが児童福祉の観点からまだ変えられる余地がある。

「自民党は旧統一教会と縁を切れ」なんてことを叫んでも、歴史に学べば一時の「エンタメ」となって終了だ。そうならないためにもいま本当に必要なのは、この瞬間に、苦しむ「宗教被害者」をどう救えるのかという議論なのではないか。

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