スミーツ氏は、些細な攻撃であれば戦争行為とまではいえないものの、積み重なって全体としてみた場合、第5条の発動要因を満たし得ると指摘している。この発言を受けて同記事は、「ロシアによる西側へのサイバー戦争を前に、NATOは第3次世界大戦の瀬戸際にある」と報じた。
政治専門サイトの「ポリティコ」欧州版は、マドリード会議を経てNATOは「より危険な時代に足を踏み入れ」ており、「ロシアと対立の瀬戸際」にあると報じた。ウクライナ紛争ではサイバー戦争や情報戦など新たな要因が観察されるようになっており、「かつてないほど高度に不確実なリスク」となっているという。
ロシアと国境を接するエストニアのカヤ・カッラス首相は、通常の戦闘とサイバー攻撃の2軸で展開するハイブリッド戦争を念頭に、「安全保障は30年間で最も危険な状態」だと表明した。また、ポリティコの記事は中国とロシアの連携も脅威だと指摘し、「火を吐く龍とうなる熊」だと形容している。
サイバー空間が「ヨーロッパの火薬庫」になる恐れ
2月からの短期決戦を目論んだプーチンの思惑は見事にはずれ、実弾戦は泥沼化の様相を呈している。かえってNATOの結束の強化と北欧2カ国の新規加盟へのうねりを呼び、ロシアを包囲する国際社会の波風はいっそう高くなるばかりだ。
同様にサイバー世界の攻防も、プーチンに不利な兆候を示している。ロシアのお家芸であったはずのサイバー攻撃だが、ウクライナ侵攻当時の電力網への攻撃以降、顕著なものは確認されていない。
NATOは電子空間での攻撃が集団的自衛権の発動事由になり得ることを繰り返し強調しており、プーチンがこれを警戒している可能性があるだろう。そうでなければ、ただでさえ兵力不足がささやかれるロシアにとって、サイバー攻撃を積極的に繰り出さない理由はないはずだ。
一方、ウクライナ支援を妨害する目的で、ロシアが欧州へのサイバー攻撃に出るおそれも十分に残されている。
国家的な諜報部隊による攻撃のほか、義憤に駆られた個人やハッカー集団がロシアやウクライナへのサイバー攻撃を仕掛ける例は実際に発生しており、国家による謀略との線引きは困難だ。これが国家単位の攻撃とみなされたならば、意図せずNATO対ロシアの火蓋が切って落とされるおそれも否定できない。
地上戦のみならず、サイバー空間での火種が第3次世界大戦を誘発する危険性が各所で指摘されている。サイバー空間が新たな「ヨーロッパの火薬庫」になる恐れがあるのだ。多くの犠牲を生んだ過去の戦禍が繰り返されることのないよう願うばかりだ。