衛星自体は攻撃を免れたが、各家庭や受信施設で使用する受信装置に不正なアップデートが仕掛けられ、再起動不能となった。独シンクタンクのGISは、この影響でドイツの風力発電所5800基の稼働状況が一時監視不能に陥ったと報じている。

同記事は「侵略以降、ロシアの攻撃はより頻繁かつ破壊的になってきている」と述べ、国家が支援するハッカー集団による長期にわたる計画的な犯行であると指摘している。

ウクライナ侵攻は「世界初の全面的なサイバー戦争」

ロシアは地上戦において、民間人への意図的な攻撃を禁じた国際法を無視し、病院を含む民間施設への砲撃を続けている。同様にサイバー空間でも、民間施設が攻撃の標的となっている。

米シンクタンクのアトランティック・カウンシルはウクライナにおいて、電力施設やその他インフラなど、公共性の高い施設がサイバー攻撃を受けていると報じている。病院や救助隊などがサイバー攻撃の影響を受け、活動が困難になっているという。こうしたことから記事は、ウクライナ侵攻が「世界初の全面的なサイバー戦争」であるとも指摘している。

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特に送電インフラへの攻撃は深刻な問題であり、被害はあらゆる産業に及ぶ。セキュリティ情報を報じる「ウィー・リブ・セキュリティ」は今年6月、過去に起きたキーウでの停電を検証する記事を掲載している。2016年に発生したサイバー攻撃により、キーウの広い範囲で全電源が1時間にわたり遮断された。

記事によるとこの攻撃は、電力インフラをターゲットとしたマルウェア(有害なプログラム)の攻撃によるものだったという。インターネットを通じて変電所に侵入し、産業用ネットワークを通じて広域の変電設備に感染するよう設計されていた。2020年にアメリカは、この攻撃がロシアの軍事情報機関GRUに所属する6人の将校によって仕組まれたものであることを特定している。

電力網の安全確保は急務だ。ロイターが報じるところでは、ウクライナは侵攻以降、ロシアに依存していた電力網を独立系へと切り替えている。侵攻当時はくしくも、国内単独での需給バランスを確認する「アイランド・モード」の試験運用中だった。数日間を予定していたテスト後もロシア網への再接続は行わず、欧州側の電力網への緊急接続を行う方針となった。

海外メディアが報じる「第3次世界大戦のシナリオ」

仮想空間の攻撃から大戦に発展するというシナリオについて、海外メディアが現実の脅威として捉えつつある。英エクスプレス紙は、欧州サイバー紛争研究所のマックス・スミーツ所長の発言として、「サイバー攻撃は事実、NATO第5条の発動を誘発する可能性があります。混乱や破壊が重大であれば、戦争行為と呼ぶことができるのです」と報じている。