※本稿は、綿貫渉『怒鳴られ駅員のメンタル非常ボタン 小さな事件は通常運転です』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
改札で駅員を怒鳴り散らす乗客
「俺は暴力団の一員だ。お前と、お前の家族も全員ぶち殺してやるからな!」
これは、私が言われた苦情の中で最も印象に残っている言葉である。
ある日のこと。50代くらいの男性が、自動改札機に切符を投入した。しかしエラー音とともに、改札の扉は閉まってしまった。確認すると、「券詰まり」を起こしている様子。自動改札機の内部で切符が詰まっているのだ。切符が曲がっていたり、手汗で湿っていたりすると、稀に発生する。
すぐに客のもとへ向かい声をかけたのだが、様子がおかしい。その方は、自動改札機を「この野郎!」と言いながら蹴り続けている。明らかに常軌を逸しているので、危険を察知した私は改札窓口の室内に戻った。すると、その人は興奮した様子でこちらに向かってきた。
「切符が機械の中で詰まっているようで……」私が言いかけると、「違うだろ! なんでそこから出てこないんだ! すぐ来るのが普通だろ!」と喚く。
いやいや、すぐに向かったけど相手にされず、蹴りを入れ続けていたんだけど……。攻撃してくるかもしれない相手から離れた私の行動は、間違ってはいないだろう。
男の怒りは、まったくおさまらず、同じようなことをずっと怒鳴っている。駅員が怒鳴られることは日常なので、同僚も助けに来ない。10分も経つとおかしいと思った助役が出てきて一緒に対応してくれたが、男はまったく落ち着かない。
「バカ」「死ね」と言ってくる人はたくさんいる
怒鳴り続ける男を見て通りすがりの人が通報してくれたのか、警察官が来た。「助かった!」と思ったが、男は「話をしてるだけで、悪いことをしてるわけではない。そうだよな⁉」と言う。その勢いに圧倒されて、「そうです」と応えてしまった。