現場に急行するも、それらしい人が見当たらない場合が多い。数十秒~1分程度しゃがみこんだものの、すぐに治ってその場を立ち去ったのだろう。また、それらしい人がいて駅員が声をかけても「ちょっと休めば治るので大丈夫です」と言われることも多い。

飲み過ぎて座り込む男性
写真=iStock.com/Opla
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ただ、次の場合は別である。

「あそこに倒れている人がいます!」

具合が悪いではなく、倒れているとなると一大事なのは明らかだ。現場に急行すると、乗客が意識を失って倒れている場合や、意識はあるものの全く動けなくなっている場面を何度も見てきた。

また、意識を失っている乗客に同僚がAEDを使用して救命を行ったこともあった。駅にあるAEDは決して飾りではなく、現実に使う場面がやってくるのである。こういう場合は駅員にできることには限界があるので、すぐに119番通報し救急車を手配する。最初は緊張するが、何度もあるのですぐに慣れる。

ただ、急病人のこともあるが、酔って寝ているだけという場合も多い。駆けつけたら酔っぱらいだった、というのはちょっと拍子抜けしてしまう。私の最も記憶に残っている「倒れている人」も酔っぱらいだ。

嘔吐物にまみれた泥酔客、局部は丸見え…

「あそこに倒れてる人がいます! ヤバイのですぐ行った方が良いです!」

乗客から現場の状況を伝えられたが、そんなことがあるのかと信じられなかった。が、行くしかないので現場に急行した。

到着すると、70代くらいの男性が酔っぱらってホーム上で寝ている。それだけならよくある光景なのだが、自分で吐いたと思われる吐瀉物で衣類がかなり汚れている。しかも、なぜかズボンを下ろしている。局部が丸見えだ。さらに、靴は履いていない。周りに見当たらなかったので、だいぶ前にどこかに脱ぎ捨ててきたのだろう。

幸いにもズボンは紛失はしていなかったので、局部露出は何とかなりそうだ。最初は起きる気配がなかったが、何度か声をかけると目を覚ました。

「どうされましたか? ズボン脱げちゃってますけど穿けますか? ここは人がたくさんいますからこのままじゃ良くないですよ」

自分は何をしているのだろうと思いながら、乗客に声をかける。幸いにも、自力でズボンを穿いてくれた。ひと安心したものの、このままずっと駅のホームで寝られていても困る。

「どちらまで行かれますか? この駅の近くがご自宅ですか?」

とりあえず目的地に向けて案内して、何とかここから動いてもらわなくてはならない。ホームでずっと寝ていたとして、終電が行ってしまったら駅を締め切るので最終的には出てもらう必要がある。今の時刻は23時。まだ電車が動いているうちの方が彼の目的地にたどり着きやすいだろう。