日本企業だけが持つ「強烈な免疫力」
現在、「大手」と呼ばれる日本企業の多くは、終身雇用制度で守られた生え抜き社員たちが、個ではなく組織の一員として自らを周りに同調させながら、部長、役員、社長となって組織を維持・成長させてきた。
こうしてつくり上げてきた組織に、日本人以外の社員は参加できない。もっと言えば、同じ日本人でも、女性社員でさえなかなか参加できていない。
そうしてできた組織体の維持には、強烈な免疫力が働く。女性や外国人社員、男性中途採用社員は異物であるとみなされ、はじき出される。
「ある試作品を3週間で納入したかった。数年くらいで数十億円のビジネスになる可能性があった。しかし、試作品の作成を了承してもらうためのやりとりだけで1カ月かかった。競争する前の段階だ。競争にすらならなかった」
そう言い残して、あるエース級人財が退職した。日系部品メーカーのフランス人エンジニアだ。
彼は将来の本社役員候補とも期待されていた。来日し、本社や研究開発部門で、数カ月滞在するなどの研修経験もあった。本社や、日本人生え抜き社員とのネットワークも相当できていたはずだった。
生え抜きの日本人社員にとって、自分たちが慣れ親しんでいる自社の仕事の進め方や価値観は空気のように当たり前で、それを中途採用の社員や外国人社員に押し付けているということにさえ気がつかないでいることが多い。
価値を生み出さないことに時間をかけ過ぎる
これは特殊な実例ではない。日系企業の現地法人で長期間働いているスタッフの多くは、結局のところ、会社の文化に馴染むことができた人間だ。
それとて、本当に意思決定の中枢にあるラインへの信頼を得たり、影響力を行使できたりするようになるためには、相当の時間がかかる。そうした時間は、必ずしも市場や顧客に感じてもらう価値を生み出す時間ではない。
その間、市場では競争が続いている。そのために、顧客の声を聞き、変化を先取りし、製造拠点の采配や研究開発の資源配分が、市場で勝つために必要なスピードやスケールで進められない。
こうして、日本企業の海外での事業展開は苦戦が伴い、時間がかかり続けているのだ。