部下に主体性を与える「内発的動機付け」

人がやる気になる動機付けには、「外発的動機付け」と「内発的動機付け」の2種類があります。「外発的動機付け」は、金銭や賞罰、名誉など、報酬に基づく動機です。外からの人為的な刺激によって与えられるものです。一定の成績を上げた社員に報酬を支払うインセンティブ制度や、営業成績優秀者の表彰など、多くの企業で「外発的動機付け」を活用した取り組みが行われています。

一方、「内発的動機付け」とは、お金のためや他者からの評価とは異なり、内面から沸き起こる興味・関心や意欲に動機付けられて行動を起こすものです。たとえば、本を読むこと自体を楽しんでいるのは「内発的動機付け」、試験勉強のために本を読んでいるのは「外発的動機付け」といった違いです。

「外発的動機付け」の場合、そこで得られる報酬そのものが目的になりがちですが、「内発的動機付け」では行動そのものが目的となるため、より主体的に取り組んでいる状態になっていると言えます。

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内発的動機付けを促す3つの要素

そのような「内発的動機付け」を促す要素として、心理学者のエドワード・L・デシ氏とリチャード・M・ライアン氏による「自己決定理論(SDT:Self-determination theory)」では「人は生来、能力を発揮したい(有能感)、自分でやりたい(自律性)、人々と関係を持ちたい(関係性)という3つの心理的欲求が備わっている」と説いています。

つまり、仕事をするなかで、「自分は○○ができている」という「有能感」が実感でき、誰かの指示や命令ではなく自分で決定し動かしているという「自律性」を感じ、同じ目標をめざす仲間との交流や刺激をし合う「関係性」を持つことが大切なのです。また、ダニエル・ピンク氏は『モチベーション3.0』(講談社)の中で、自律性に重要な4つのT(Task:課題、Time:時間、Technique:手法、Team:チーム)をあげ、「何を、いつ・どこで、どんな方法・手段で、誰と行うのか」を自己決定できることが大切だと紹介しています。

逆に言うと、これらを実感できない環境や関係性のなかでは、人は徐々にやる気を失っていくというわけです。リーダーとして、自分の言動がこれらの環境を阻害していないか、「内発的動機付け」を意識した関わりや環境づくりができているかを考えてみてください。

極端な「任せきり」はかえって部下の不安を生む

だからといって、「任せた」と言い放ち、部下に仕事を丸投げすれば「内発的動機付け」ができるというわけでもないのがマネジメントの難しいところです。たとえば、新規案件が発生したこんな場面。

松岡保昌『こうして社員は、やる気を失っていく』(日本実業出版社)

上司「この案件、決まったことは知っているよね。君に任せるからさ。頑張ってやってみて」
部下「わかりました。決まるまでにけっこう時間がかかりましたが、何か注意点はありますか?」
上司「いや、とくにないと思うよ。いつもどおりにやっておいてよ」

(後日)

部下「先日の案件で、この部分、どうしたらいいのかアドバイスをいただけますか?」
上司「うーん……。そのくらい、自分で考えてよ」

放任主義の丸投げ上司にありがちな態度です。「任せた」という言葉は部下を信頼しているようにも聞こえますが、部下からすると、本当に信頼されて任せてもらったのだろうかという不安感や、上司への不信感が募る態度とも言えます。