「気が抜けてます笑」嘘のように静かだったのが…
その半年前、2021年秋は第5波における感染者数が嘘のように終息し、静かな日々だった。
夏から続いていた緊急事態宣言、まん延防止等重点措置が10月1日にすべて解除された後も感染者数は増えることなく、その後11月になっても増加の傾向はみられなかった。国立感染症研究所は11月9日、「全国の新規感染者数は今週先週比が0.76と減少が継続し、直近の1週間では10万人あたり約1と、昨年の夏以降で最も低い水準が続いている」「重症者数は昨年(2020年)の秋以降で最も低い水準」と報告している。
その頃の湘南鎌倉総合病院コロナ臨時病棟の責任者・小山洋史からのメールが残っている。現在の心境を問うと、〈気が抜けてます笑〉とあった。180床を有する臨時病棟においても入院患者が数人、「最少で1人」という日々が続いていた。コロナ発生から1年半以上、張りつめていた緊張の糸がこの時切れたのだと思う。誰もが、もうコロナは終わったのではないかと感じていた。
10万人を超える大爆発に
ところが、11月9日に採取された検体から新たな変異株が見つかり、WHOはそれを同月26日に最も警戒レベルの高い「懸念される変異株(VOC)」に指定した。WHOのVOC指定は5つめで、アルファ、ベータ、ガンマ、国内第5波主流のデルタ、そして新たな変異株はオミクロンと名付けられた。日本では同月30日にナミビアから成田空港に到着した30代男性の「オミクロン株」への感染が判明。徐々にコロナは、オミクロン株が主流になっていった。それでも12月までは現場はまだ落ち着いていたのだ。
本格的な感染爆発は、2022年が明けてからだった。
1月18日には全国で新規感染者が3万人を超え、2月3日には初めて10万人を上回った。第5波の「4倍」である。
他院から怒鳴られても、なぜ断らないか
「なんでベッドがないのに、患者をとるんだよ!」
湘南鎌倉総合病院ERで働く救急救命士は他院の医師からそう怒鳴られた。転院搬送の交渉を行っている時のことだった。
同院ERで診断と初期治療を行い、軽症患者などは他所へ転院する――この姿勢を他の医療機関から批判されることはしばしばある。
私が同院についての記事をオンラインで発表した際も、「受け入れても、他に転院させるんだから意味がない」「転院させるのに、受け入れるのって意味あるの?」という一般の方のコメントが並んだ。
それは救急医療を“断られたことがない人”の感想だ。
自分や家族の命に危機が迫った時、まずは救急の医師に診てほしいと誰しも思うはずだ。その時、1分1秒がどれほど長く感じるか。私にもそういった経験がある。