政府のエネルギー政策は首をかしげざるを得ないものばかり
世界を巻き込んだ奪い合いで化石燃料の価格が高騰したままだとしても、日本の政府や企業が一生懸命がんばって、われわれに安い電気を提供してくれたらステキですね。国民の先々の生活を真剣に考えていて、本当に国民のためになることを、たとえ仲間内での受けが悪かろうとも地道に準備してくれている。そんな国だったら、ちょっと安心できます。
しかし大変残念ですが、「国民の電気代」という素朴な問題について真面目に考えている、政治家・官僚・大企業・研究者は、筆者の知る限りほとんどいません。完全にゼロとはいいませんが、ほぼゼロです。この国を動かしている彼らの関心事は、「自分とお仲間が今だけ楽しければオールOK」のただ一つ。残念ながらそうとしか思えません。
政府から「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」とか「クリーン・エネルギー戦略」などの美名の下に打ち出される政策は、巨大な石炭火力発電所の維持・新設を前提にするような首をかしげざるを得ないものばかりです。夢の技術として盛んに宣伝される炭素回収・貯蔵(CCS)やアンモニアも全く実用化しておらず、世界から相手にされず融資もしてもらえない。そうした一部企業の「世界に誇る」化石技術を、国債を盛大に発行してまで全力で支えよう、というのですから。産官学が結託した日本の化石ファミリー、恐るべしです。
「化石ファミリー」を崇拝した人が高い電気代を払い続けるという皮肉
「安い石炭が日本を救う」という論調がなぜかはびこっていますが、前ページの図表2のグラフを見れば、石炭の価格も順調に上昇中。むしろ、シェールガス革命でエネルギー輸出国に転じた、アメリカの天然ガス価格の安さが際立ちます。
化石技術は、化石燃料を自国でまかなえるアメリカや中国こそ有利なのは自明の理です。化石燃料をほぼ100%輸入する日本が、なぜか化石技術に執着する無理筋。本気で勝てると思っているのなら、かなりシュールです。
もちろん家を建てる住宅産業も、一部の例外はあるものの、ほとんどの業者は施主の電気代なんて全く気にしていません。今回の太陽光設置義務化はもちろん、最低限の断熱・省エネの義務化においても、彼らは「住宅の販売価格が高くなる」などと常に反対し先送りさせてきました。産業界は、目先の「売りやすさ」を最優先し、少しでも邪魔になりそうな政策には難癖をつけてただ反対する。これまでの数々の行いが証明しています。
なんとも滑稽なのは、既得権論破して俺スゴが勝ちパターンのはずのYouTuberたちが、図らずも化石ファミリーの既得権を死に物狂いで守り、逆に動画を信じた視聴者を寒さと貧しさに放り出そうとしているという皮肉。毒強めのブラックコメディーのつもりかもしれませんが、筆者はちょっと笑う気になれません。
もちろん、日本を牛耳る化石ファミリーを信じて、彼らがいつまでも安い電気が潤沢に供給してくれると本当に信じるのであれば、どうぞ、断熱も設備も太陽光も一切やらず、「ノーガードの家」を好きなように建てればよいのです。もちろん筆者は、そんな無責任なアドバイスは絶対にできませんが。