いわれないヘイトにさらされ続けた「断熱・気密」の歴史

熱と空気の勝手な出入りを防ぐ「断熱・気密」は、冬暖かく夏涼しく、少ない暖冷房費で暮らすために欠かせません。設備の高効率化が一段落した2010年以降、普及が加速した感があります。しかし、断熱・気密の歴史はそれこそ「アンチ」「ヘイト」にさらされた苦難の歴史でした。

もともと、日本の伝統住宅は断熱・気密の概念が全くなく、雨露をしのぐのが精いっぱいで、熱も空気も出入りし放題。オイルショック以降はさすがにひどすぎるということで、寒冷な北海道から、断熱・気密の取り組みが始まりました。初めは結露などのトラブルもありましたが、地道に改善を重ねて解決してきました。

寒冷地で普及した後、だいぶ遅れて本州でも断熱が普及し始めますが、これがもう大変でした。「日本の伝統に断熱気密なんてない」「断熱・気密をとると木が腐る」「北海道の技術を外に押し付けるな」と、すさまじい批判や中傷が吹き荒れます。

筆者も、「家が暖かいと子供がナマケモノになる」「断熱・気密がいらないことを証明するために俺はエコハウスを建てた」と主張する設計者に、面と向かって遭遇した経験が少なからずあります。

国土交通省も23年ぶりに断熱の上位等級を新設

そうした「建築の専門家」からの心無いヘイトにさらされる中、真面目な研究者や建設業者は、涙をこらえつつ地道に技術を磨き、少しずつ実績を増やし、価格を下げてみんなに断熱の恩恵を届ける努力を続けました。そのおかげで、冬にも暖かく電気代も心配なく暮らせる技術が確立したのです(詳細はプレジデントオンラインへの寄稿「日本はいつまで“寒い家”を押し付けるのか」を参照のこと)。

断熱の普及に全くやる気のなかった国土交通省もその効果を認めざるを得なくなり、今年4月に実に23年ぶりに断熱の上位等級を新設しました。断熱は長い苦労を経て、ゆるぎない「いぶし銀」となったのです。「断熱すれば暖かく暖房費も節約できてこれは絶対やったほうがいい」と筆者も手放しでオススメできます。

断熱の技術が確立した今、かつての「断熱アンチ」の面々はどうしているのでしょうか? 反省して断熱に前向きに取り組むようになった真面目で良心的な人もたしかにいます。一方で「そんなこと言ったっけ~」と素知らぬ顔を決め込んだり、「やっぱり納得できない~」といまだに反対運動にいそしむ人も少なからずいます。

本来は現政権の「グリーン」戦略を攻撃すべき野党まで巻き込んで、時代錯誤の断熱ハンタイ・太陽光ハンタイ運動を繰り広げ、図らずも化石ファミリーを熱烈支援しているのです。

原油価格上昇がコンセプトのイメージイラスト
写真=iStock.com/ChakisAtelier
※写真はイメージです

建築の専門家だからといって、住まい手にちゃんと責任をとろうと日々研鑽している人ばかりだと思っていたら大間違いです。問題だらけの古いやり方を改善しようとせず、思い込みと大昔の情報を言い散らし、そのせいで寒さと貧しさに苦しむ人がたくさん出ていることに気付こうともしない。こういう自称「建築のプロ」が大きな顔をしてのさばっているのが、住宅産業の現実なのです。

こういう自称プロが拡散する「○○○おススメしません」系の動画を見る時、ちょっと思い出すとより楽しめること請け合いです。