アゼルバイジャンからの“別ルート”確保を発表

実は、オルバン首相がブリュッセルでEU26カ国を向こうに回して、捨て身で自国の経済と国民を守ったその日、同国のペテル・シーヤールトー外相はクロアチアの首都ザグレブで、クロアチアのエネルギー担当相と会談し、アドリア・パイプラインの延長について合意したというサプライズを発信した。「オルバン首相のおかげで、ロシアからの石油輸入は保証された。しかし、完全なエネルギー安全保障のためには、調達国の多様化が重要な鍵である」とシーヤールトー外相。

アドリア・パイプラインというのは、アゼルバイジャンなどからカスピ海方面の石油をイタリアまで運ぶパイプラインで、その一部はクロアチアも通っている。そして、そのクロアチアのアドリア・パイプラインとハンガリーの間は、すでにパイプラインが繋がっている。これは、主にハンガリーがロシアのガスをクロアチアに送るために利用されていたものだが、反対方向に使えば、アゼルバイジャンの石油をハンガリーに送ることができる。

ウクライナに配慮しつつ、自国の利益も守るしたたかさ

種類の違った石油を受け入れるための施設の調整はそう難しいことではなく、また、わずかの投資でアゼルバイジャンは増産もできるという。つまり、いざとなれば、ハンガリーの消費分ぐらいは、これで十分カバーできるらしい。

なぜ、ハンガリーがこれを急いでいるかというと、ロシアを制裁したいわけではなく、ウクライナを警戒しているからだ。ドルジバ・パイプラインはウクライナ経由なので、ウクライナがその気になれば、輸送を妨害したり、あるいは、それを武器にハンガリーに圧力をかけたりすることができる。ウクライナは、ロシアと敵対関係になろうとしないハンガリーのことを非常に不快に思っているから、妨害はあり得ないことではない。ハンガリーの安全保障に関する心構えは実に秀抜である。

それに比べて日本。「EUが連携して、さらなるロシアへのエネルギー依存の低減につながる措置につき合意したことを歓迎する」と松野官房長官。そして、「石油のほぼすべてを輸入に頼っているわが国としては大変厳しい決断だったが、G7=主要7カ国の結束が何よりも重要なときであり」と、日本の制裁参加を正当化した。ただ、ここにはG7の意向は反映されているが、日本国民に対する配慮がまったく感じられない。