【深井】野口英世などの歴史的な偉人をロクでもなかったと煽ったり、陰謀論をことさら強調したりするメディアやコンテンツにうんざりしている人は、少なくありません。ぼく自身もまさにその1人なんですが……。

そうしたコンテンツにうんざりした人向けの情報がいまはとても少ない。ファクトと意見を分けて歴史を語るような人たちがいれば、需要がある気がします。

反面、言葉が届かない層が一定数いるのも事実です。

先日、「COTEN RADIO」で、ロシアとウクライナの歴史を取り上げました。同じ事実や史実であっても、立場によって見方が変わる。ぼくらは、ウクライナやロシアをめぐる様々な立場から、この事実はこのように解釈されると解説したんです。

でも、ぼくらの意図を理解しない反応もあった。ウクライナのネオナチについて言及していないからけしからん、という抗議をいただいたんです。ウクライナのネオナチの情報は、正確なソースは示されていません。

申し訳ないのですが、ぼくはそういう人は完全に無視するようにしています。

知識をひけらかす人、陰謀論を信じる人の盲点

【本郷】ソースを確認できない人は多いですよね。

【深井】最近、びっくりしたのは、本郷先生が語った歴史の解釈に対して、YouTubeで知ったらしき不確かな情報をもとに反論する人がいたこと。もう本当に訳が分からない……。

【本郷】笑い話ですが、「東大で教えているくせに、そんなことも知らんのか」と私に歴史を教えてくれる人もいますからね。

撮影=遠藤素子
深井さんと対談する本郷和人教授

【深井】根拠のない情報や陰謀論を信じてしまっているんですかね。

【本郷】陰謀論は純粋に面白いからね。織田信長と明智光秀の間に何があって、本能寺の変が起きたのか、という有名な陰謀論があるじゃないですか。

【深井】秀吉が黒幕だという話ですね。

【本郷】あとは、家康や貴族が黒幕という説もある。歴史の議論にはたくさんの人が参加できます。そこで、陰謀論をふくめて議論を楽しむのはとてもすばらしいことだと思います。でも、あやふやなソースをもとに、自分が正しいと主張するのは、議論とは呼べません。

いまはSNSでみんなが意見を書き込めるから、陰謀論がまるで事実のように広まってしまうのですが……。そう考えると、深井さんが、こちらの意図を理解しようとしない人を完全に無視するという姿勢は正しいのかもしれません。