音声配信番組「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」が、若手ビジネスパーソンの支持を集めている。番組の主宰者で、COTEN代表の深井龍之介さんは「歴史を学べば、悩みを抱えて今を生きる人も楽に生きられる」という。著書『歴史思考』(ダイヤモンド社)の出版を記念し、東京大学史料編纂所の本郷和人教授との対談をお届けする――。(後編/全2回)(構成=ノンフィクションライター・山川徹)
再生回数が稼げるから、野口英世を徹底的にこき下ろす
(前編から続く)
【本郷】先日、YouTubeを見ていたら、野口英世を取り上げていました。いかに女にだらしなくて、金に汚く、ロクでもない人間だったかを延々と解説している。
野口英世は、黄熱病や梅毒の研究で知られ、医学の発展に貢献した人物です。しかしそのYouTubeでは、1000円札の肖像にもなった偉い人を茶化して、動画再生回数を稼いで儲けようとしているようにしか見えなかった。
近頃は、そうした、悪く言えば歴史を食い散らかすような人たちが増えた気がします。
でも、深井さんが歴史的な人物を取り上げるときには、功績とだらしなさ、その両方をきちんと紹介している。しかも聞き手に合わせた話もできる。私は深井さんが語る歴史に、公平性を感じるんです。
【深井】それには理由があります。私が配信している音声番組「歴史を面白く学ぶコテンラジオ(COTEN RADIO)」のリスナーには、その人物のダメな部分に共感する人もいますからね。
リスナーのなかには、いまの自分に満足できない自己評価が低い人もいれば、充実感と自信を持っている人もいる。織田信長は20代で桶狭間の戦で勝ったのに、自分は40歳になってもパッとしないサラリーマンだと感じている人も、すでに自分は歴史に残る偉業を成し遂げたと考えている人もいるかもしれません。
でも、歴史という長い時間軸で見てみたときにどうなのか。苦労して成し遂げた何かは、長いスパンで見たら、ささいなことだったり、どうでもいいことだったりする可能性が高い。