GPSは時計があってこそ機能している
NTS–1で使われた実験用のエフラトムの時計はおもにミュンヘンでつくられ、カリフォルニア州アーヴァインでロックウェルとエフラトムの両社によって、初期の一連のGPS衛星用に引きつづき開発された。だが、GPSは地球を周回する唯一の測位衛星ではない。ロシアのGLONASSというグローバル・システムは、サンクトペテルブルクのネヴァ川沿いの施設でつくられた時計を使っている。
ヨーロッパにはガリレオというネットワークがあり、その衛星には(スイスの:訳注)ヌーシャテルとローマを拠点とする企業がつくる時計が搭載されている。中国の北斗衛星導航系統として知られるシステムは、当初はスイスのメーカーから購入した時計を使っていたが、のちに中国航天科工集団公司によって製作された独自の時計を利用するようになった。
地域限定の小規模な測位システムも2種類存在する。インドのIRNSS(のちにNavIC:訳注)はドイツ製の衛星時計を使用していたが、中国と同様に、のちに自国製の時計を使うようになった。こちらはアーメダバードのインド宇宙研究機関によって開発された。準天頂衛星システム(QZSS)と呼ばれる日本の地域ネットワークは、マサチューセッツでつくられた時計を使っている。
これはグローバルな測位衛星の集合体のための、本当にグローバルな時計製作ネットワークなのである。合計すると100基を超えるこれらの衛星が現在、私たちの惑星の周囲を回っており、世界各地のこうした工場で製造された300台ほどのミニチュア原子時計から地球に向かって精密な時報を発信している。
時計の仕組みは知らずとも、何を意味するかは知るべき
これらの時計は衛星測位の受信機にその正確な位置を伝えるだけでなく、その他の無数の時計の時刻を正しく合わせるためにも使われている。これら300台ほどの時計によって刻まれる時は、これまでつくられたどんな時計にも増して多くの人のもとに到達している。
したがって、私たちはそれらの時計について知り、理解すべきなのだ。それらがどんな仕組みであるかはさほど知らずとも、何を意味するかは知るべきだ。なぜなら、20世紀の冷戦時代に考案されたこれらの時計は、21世紀の戦争をグローバルに再考する一環となっているからだ。それらは、戦争が意味するものを永久に変えているのだ。