ソ連こそ人間の希望…

ソビエト連邦の崩壊は20世紀最大の惨事だ、とプーチンは言明した。

クーリエ・ジャポン編『ウクライナの未来 プーチンの運命』(講談社+α新書)

何百万人もの人を死なせたスターリンの赤い車輪にかれることを皆が恐れていたこの国において、(ソビエト崩壊は)すべての理性的な人にとって幸福な出来事だったわけだが、プーチンにとってはそうでなかったのだ。

プーチンは、かつて自分がそうだったKGB高官としての考えを、自らの頭から排除しなかった。

彼らは、ソ連は進歩した人間の希望であり、西側は敵であり、私たちロシア人を侮辱しようとしていると教え込まれてきた。

プーチンはタイムマシンで時間を巻き戻すことで、居心地のよかったソビエトの若者時代に戻れると思い込んでいた。そしてやがて、すべての臣民を一緒に連れ戻そうとしたのだ。

不幸と戦争の奴隷になった

権力のピラミッドが厄介な点の1つは、頂点にいる人間が自分の精神疾患的徴候を国全体に伝染させることだ。

イデオロギー的に見れば、プーチニズムとはむしろ折衷的な性質を持っている。ソビエト的なものすべてに対する敬意は封建的な倫理と手を取り合うし、プーチンの手にかかればレーニンは、ツァーリのロシアやロシア正教と結び合わせられる。

プーチンの思想の中核を形作っている哲学者は、イヴァン・イリインだ。君主制主義者で、ナショナリストで、反ユダヤ主義者で、反革命の白色運動のイデオローグだったイリインは、1922年にレーニンに追放され、亡命生活のまま生涯を終えた。

ヒトラーがドイツで権力を握ると、イリインはこれを心から歓迎した。ヒトラーが「ドイツをボルシェヴィキから守った」からだ。「私はこの3カ月間の出来事をドイツのユダヤ人の観点から評価することを断固拒否する」、「永遠の融和という自由民主主義の催眠術は払いのけられた」とイリインは書いている。

ヒトラーがスラブ人を第二級の人種だと表明したことで、ようやくイリインはヒトラーを悪しき存在とみなして批判し、ゲシュタポ(秘密国家警察)の手に落ちたが、後に(作曲家の)セルゲイ・ラフマニノフの支援で解放された。先に挙げた論文でイリインは、ロシアのボルシェヴィズムが崩壊したあかつきには、ロシアを立ち直らせてくれる指導者が現れるという期待を表明している。