より効果が大きいのがクーポンだ。1杯買えば次回は100円引き、2杯目で次回はトッピング1回無料と続いていくもので、10杯目に50%引きになる、まずはバナナジュースを10杯飲んでもらいたいという発想で始めたものだ。

10杯飲めば、バナナジュースが習慣化できるという狙いがある。ただ割引率が高いので、高頻度で配るわけにはいかない。年に2回程度タイミングを見て配る予定だ。

輸入フルーツ仲卸の老舗への直談判

バナナジュースの販売にあたって大事なのが、質の高いバナナの確保だ。

黒田が当初から狙いを定めていたのが、輸入フルーツ仲卸で歴史のある松孝だった。業界では誰もが知っているバナナ問屋の老舗で、品質も価格も申し分ない。できれば市場に多く出回るフィリピン産ではなく、甘みのあるエクアドル産を安定して調達したかった。

はじめてバナナスタンドに対応した日のことを、松孝の3代目社長、吉村誠晃まさあきはよく覚えていた。

松孝の吉村誠晃社長。創業者吉村孝三郎から継いだ松孝の3代目。(写真提供=松孝)

「いきなり遅刻してきたんですよ」

バナナスタンドからは、創業時から黒田の下で働いている学生2人が訪問していた。大田市場は品川からモノレールに乗り、流通センターから徒歩で20分ほどかかる。市場の入り口近くにある松孝の本社ビルに、2人は息を切らせて走り込んできた。

「2019年の秋くらいですよね」
「それくらいです。焼きそば屋のオーナーがバナナジュースをやりたいので、力を貸してほしいっていうんです。正直そういった話はよくあるんですけど、こっちも学生の遊びにつき合うほど暇じゃない。断ってもよかったんですけど、大声で謝る姿を見てると、若いのに見どころのある子たちだなと思えてきたんです」

吉村社長が話してわかったのは、2人が愚直なほどに真剣だったことだ。おいしいバナナジュースを作るための方法を一生懸命考えており、その熱心さが伝わってきたという。

松孝はスーパーマーケットとの商売がメインで、消費者に直接会うことはほとんどない。卸したバナナを顧客がどう食べているかわからないのが実態で、自分たちのバナナが届く姿が見えるのは新鮮な経験だった。

タピオカにはないバナナの強み

吉村は黒田の金融マンのかけらもない姿が驚きだった。

キャップを後ろ向きにかぶり、真っ黒な服装で、日本一おいしい焼きそばを作る自信があるという。同じようにおいしいバナナさえあれば、均一なおいしさのバナナジュースができるという言葉を覚えている。

タピオカはブームになったが、高い値段設定もあって日常生活に定着しなかったという問題意識は吉村と同じだった。

1杯600円もすれば同じ道を歩むことになると思うが、黒田はどうにかしていいものを安く売りたいという。バナナには実需があるだけに、バナナジュースも売れるはずだ。その考えに好感を持って取引することにした。