コロナ禍で冷凍弁当の宅配サービスを展開

【事例3】TANPAC「筋肉食堂」

TANPACの運営する「筋肉食堂」は、「D2C(Direct to Consumer)」の売り方によってコロナ禍の危機を乗り越えた事例だ。D2Cとは、企業が消費者に対して製品を直接に販売する「直販モデル」だが、ウェブサイトやSNSで顧客と直接結びつき、顧客自身が発信するクチコミを有効活用して、ネット販売を促進させる点が特徴である。

筋肉食堂は「カラダづくりを志す人のための美味しい高タンパク・低カロリー食レストラン」として、2015年から六本木・銀座・渋谷などに店舗を展開している。スポーツ選手や芸能人が利用する店としても有名で、ダイエット・筋トレ・アンチエイジングなどを目的とした男性を中心に人気を集めている。2018年には丸の内などでお弁当を販売する中食事業もスタートし、2020年2月には中食事業の強化のために自社工場を立ち上げていた。そこに直撃したのが、コロナ禍の緊急事態宣言だった。

写真=iStock.com/piotr_malczyk
※写真はイメージです

店舗はもちろん、弁当の販売を行っていた商業施設自体が閉店となって中食事業も大打撃を受け、立ち上げたばかりの工場は役割を失ってしまった。そこで急きょ踏み切ったのが、店舗に来られなくなった顧客に弁当を届けるD2Cサービスの開発だった。Uber Eatsなどの店舗からのデリバリーは以前からあったが、工場をフル稼働させて作った冷凍の弁当を全国へ届けるD2Cサービスを0から開発することになった。

店舗以外での「食べてみたい」ニーズを満たした

「レストランの味をご家庭でも」をコンセプトに、メニューの開発、工場のオペレーション、ECサイトの設計、価格や送料の設定などの準備に奔走した。5月から始まったD2Cサービス「筋肉食堂DELI」の生産・販売・配送にかかわる準備を2カ月で完成させ、7月にはECサイトをオープンしてテスト販売にこぎつけた。すると、初日から100件を超える注文が舞い込み、数量限定販売ながら1カ月で数千食を販売する成果をあげた。

順調な滑り出しの背景にはSNSの活用が大きい。筋肉食堂ではインスタグラムを顧客と直接コミュニケーションを取る「集客の要」と重視しており、D2Cサービス開始や新メニュー展開などの投稿からECサイトへ顧客を誘導することで売上に結び付けた。

筋肉食堂は、もともと店舗では、食事の前のお通しでプロテインドリンクを出すほどの徹底ぶりで、身体づくりを好む男性客から高い支持を集めていた。「筋肉女子会」という女性専用コースメニューを出すなどして女性客も増えていたが、店名やイメージもあいまって、利用を足踏みする女性も少なからずいただろう。

しかし、女性にとっても「高タンパク・低カロリーの美味しい食事が食べたい」というニーズは大きい。そんな女性の「食べてみたい」「自宅で楽しみたい」というニーズをD2Cの売り方で満たせるようになった。また、「SNSやテレビで見て食べてみたくなった」という全国のニーズにも対応できるようになった。新しい売り方を始めたことで、店舗とは別のニーズを満たすことに成功したのである。

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