野菜の無人販売を参考にした「置き菓子」方式

【事例2】江崎グリコ「オフィスグリコ」

同じく江崎グリコが展開するオフィス向け置き菓子サービス「オフィスグリコ」も、売り方を変えることで新たなニーズに出会って成功した事例だ。オフィスグリコは、1997年の「お客様接点を多様化する」プロジェクトから始まった。その調査で、菓子を食べる場面として自宅の次に多いのがオフィスであることが分かり、働くオフィスで「ちょっと休憩」「もうひと頑張り」のお供に菓子を食べてもらう「リフレッシュメント」をコンセプトに、サービス開発が動き出した。

おやつを食べながら仕事をする人
写真=iStock.com/Pheelings Media
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当初は「オフィスで菓子を食べる」を公然と認めるサービスに抵抗が大きく、休憩時間の昼休みと就業後だけ、営業担当が菓子を持って訪問販売する形だった。それをもっと自然な形でオフィスの中に菓子を置けるように変更したのが、「置き菓子」である。10種類程度のグリコの菓子を入れたボックスを置き、基本1つ100円のワンコインで、菓子を買いたい人が自分自身でルールを守ってお金を入れて商品を持っていく形だ。

これは農家などが行う「野菜の無人販売」を手本に、日本だからこそ成り立つと判断して採用された。実際にほぼ100%の回収率を実現しており、グリコが代金を回収する際に販売数量と金額が合っていなかったとしても、ボックスを置いた企業に差額は請求しないことになっている。

「グリコだけの売り場」を創り出したことになる

オフィスグリコは、ボックスの設置は無料で、スタッフが定期的に訪問して菓子を補充する、あるいは商品を発送してセルフで補充してもらう形になっているが、設置先の細かなニーズに応える方針も高い支持を集めている。要望に応じて菓子だけでなくアイスや飲料を入れたり、他社商品を取り扱ったり、カップ麺を用意することなどにも柔軟に対応する。また、3回の訪問ですべての商品をリフレッシュし、年に100種類以上の商品を提供することで、常に飽きさせないように工夫されている。

2002年から東京・大阪でサービスを本格スタートすると、少しずつ「オフィスでリフレッシュのために菓子を食べる」価値観を広げていった。働きやすい環境作りが推奨されていった時代も追い風となり、サービスを拡大していき、現在では全国の約11万事業所にボックスが配置されている。つまり、11万カ所もの「グリコだけの売り場」を新しく創りだしたことになる。

「今すぐオフィスで菓子を食べたい」ニーズに応えた

オフィスで「菓子を食べたい」というニーズを持ったとき、わざわざお店に買いに行くのが当たり前で、その手間は「仕方ない」と諦められていた。オフィスグリコは「置き菓子」という新しい売り方によって、これまで諦められてきた「今すぐオフィスで菓子を食べたい」というニーズに応えた。

コンビニに買いに行くよりも、手軽で安価に、「甘いものが欲しい」と思ったらすぐその場で手を伸ばせるようになったのである。また、オフィスグリコはもともと女性をメインターゲットにしていたが、実際にサービスを開始してみると、じつは30代、40代の男性もよく利用することが分かった。「甘いものでリフレッシュしたい」と思い、子供の頃に食べた懐かしいお菓子に手を伸ばす、男性のニーズにも出会うことができたのだ。