OJTによる部下育成の決定的な難点とは
では、これまでミドルマネジャーはどういうふうにして育ってきたのだろうか。わが国の企業でよく聞かれるのは「上司の背中を見て育つ」と表現されるプロセスである。実際に“背中”を見て育つかどうかはともかく、組織という人の集まりのなかでのマネジメントの学習は、先輩の行動を観察し、その良いところ、悪いところを学習することである。「盗む」とノスタルジックに表現されることも多い。
ある意味ではマネジメントの仕方に関するOJTである。ただ普通のOJTと違うのは、上司が部下にマネジメントの仕方を体系的に教えるのではなく、どちらかといえば、仕事を一緒にやるなかで、部下が勝手に学習する側面が強いことである。別の言い方をすれば、職務遂行を通じて○○の仕方(例えば、顧客との交渉の仕方)を教えるという意味でのOJTは、マネジメントの仕方に関してはあまり体系化されることはなかった。
こうした“背中を見る”学習のことを、経営学では、観察学習とか代理学習という。ミドルマネジメント能力開発は、観察学習に依存してきた部分が大きかったのである。研修などで教えられたことはほんの少しであり、基本の共有ぐらいが関の山だった。
そして、ミドルマネジャーが育つもう1つ重要なステップがある。私が「ミニ実践」と呼んでいる段階である。つまり、部下が“背中を見て”学んだ上司のやり方を試してみる機会である。素晴らしいと思った上司の褒め方を1年後に入ってきた後輩にトライしてみる。あまり良くないと思った上司のやり方を自分なりに工夫し改良して、顧客対応で使ってみる、などである。観察学習から経験学習の段階に移行するのである。
多くの職場で、こうしたミニ実践を通じて、部下が上司のやり方を自分なりに工夫して、自らのマネジメント方法を確立してきたのである。別の言い方をすれば、ミニ実践がなければ上司から学んだものは、単に良い上司行動である。試行することを通じて初めて、自分のマネジメント手法になる。
いうなれば多くの企業でこれまでミドルマネジャーは、「観察学習→ミニ実践→自分なりのやり方開発」という過程を経て自分で自分を育成してきたと考えられるのである。考えてみても、ミドルマネジャーとしての行動のうちホントに重要なところは、部下が上司を見つつ、工夫をしながら自分のやり方を見つけてきたというのが正直なところだろう。
だが、こうした方法にはいくつかの決定的な難点がある。そしてこうした難点が顕在化するとき、これまでのミドル育成法は機能しなくなる。難点の一つは、職場の状況として、見るべき上司の背中があり、また上司から盗んだことを試行できる場があることである。